第34話 (夢・プラスチック)
(夢・プラスチック)
「で、ホンマに入ってるんか?100万分払って全部くじ買ったで?それやのに当たりが一個もないやないが!」
屋台の前に人だかりができて、その中心の男がエセ関西弁で屋台のおっちゃんと言い争いをしていた。
…祭り屋台当たりない説マンか…バカな検証するなぁ…。
雪葉が眉間に皺を寄せて、中心の男を睨む。
「誰かが当たりを取ってもう景品獲得したんやったらここに景品ですゆうておいとくのは間違ってるやろ?」
当たりが入ってないのは祭りの屋台ではあるあるだ。そんなのいちいち気にしてたらキリがない。そういうものだと割り切るべきだ。
確かにその男の言ってることは正しかった…けど。
「…正義だと思ってるのかな…?」
少しキレ声で呟く雪葉。全くもって同じ気持ちだ。
全てのくじを引いて、当たりがないと店主を批判して、それがホントに正しいと思っているのか、って言う話だ。
いくら法律的に正しかろうが、祭り的には最悪の行いだ。
「夢、売ってるのに…」
「俺の父親と全く同じこと言うな。ホント、その通りだよ」
宝くじは当たりを売るんじゃない。夢を売るんだ。
俺らの年代になればお祭りの屋台に当たりがないことぐらいなんとなく察しが付く。が…逆に言えば子供はそれがわからない。
「…折角の祭りなのに…」
少し、くぐもった声で喋る雪葉。泣いてるか?と雪葉を見ると、顔を背けた。そして俺を押し離す。
ちょっとかなしい。
子供は景品が当たったら何しよう、とか想像を膨らませて…くじは外れて。親はそれを見て『あ~あ』って笑う、そんな本来あるべき構図がそこになかった。
法律的に間違った、ぶっちゃけると詐欺みたいなことをする屋台は確かにオカシイのかもしれない。
でも…一方的に正論をぶちかまし、周りはそれに加勢してヤジを飛ばし、子供だって…怒ったような顔で叫ぶ。
あたりまえだけど、あんまり見てて楽しいものじゃなかった。
「勿体ない…折角…なのに…」
雪葉のくぐもった聞くと心がキリキリと締まるように痛む。
「ほんとそれな。みてても時間の無駄だし行こうぜ」
よく通るエセ関西弁が耳にねばりっこくひっついて離れなかった。
「射的しようぜっ!」
悠人が無駄に明るく、大きな声でそういった。周りの人が一瞬振り返って私たちを見る。
きっと、めそめそしてる私を元気づけようとしてくれたんだろう、ってわかると怒る気になんてなるわけがなかった。むしろうれしくてドキドキする。
「うん…しよ…」
「おうっ」
…私は幸せ者だって、改めて自覚した。
荒いけど気遣いができて、常にださいけど時々かっこよくて、で…私をこんなにす…っ、好きでいてくれて。
ずっと私のそばにいてほしいとか、そんなことが言えたら、どれほどか…でも恥ずかしいから言えない。
こっそり彼を見上げると、ふと目が合う。そしてにっこりと笑ってくれた。
「じゃあ雪葉先どうぞ」
「あ…じゃ、じゃあ…お先に…」
コルク銃を受け取って…肘で安定させて狙う…。狙うは一番上に居座るクマさん…だけど…。
「おっ!お菓子詰め合わせ~」
「っ…しっ…!」
狙ってたのとは違うけどマグレで当たって、嬉しくてガッツポーズする…と、悠人が私をみて、笑みを浮かべていた。
っ…見られてるだけで脳が溶ける…ドキドキする…。
そのせいで残り4発は一切当たらなかった…悠人のせいだ。
そして悠人の番…だけど…。
「…なぁおっちゃん。あの熊おもり付けてねぇよな?」
「な訳ねぇよ。はい、全部外れだな。一個だけ取れ」
悠人は見事に全弾、クマさんに当てたけどびくともしなかった。私がクマさん狙ってるのばれてたのかな…?だとしたら嬉しいかも…。
何も取れなかったら、箱の中から一つもらえるみたいだ。まぁ…プラスチックのおもちゃばっかりだろうけど。
引き抜いた手が摘まんでいたのは…やっぱり、淡い水色のおもちゃの指輪だった。
「いや~あのクマさん絶対におもり入ってるだろ!」
「でも悠人すごい…全部当てた…」
「あ、なんかそれ言われると別にどうでもよくなってきたかも」
「…単純バカ」
「ひでぇなおい!」
くだらない会話をしながら、屋台道を歩く。
でも、目が自然と、悠人の持っているオモチャの指輪に向かってしまった…。っ、けど!別にほしいってわけじゃ…!
「ほしいのか?」
「ん…って違うっ…別にそんなのいらないからっ…///」
「ほんとかぁ~?」
「ほ、ホントだからっ!」
「そうか、じゃあいいや」
…よくないっ…!ホントはほしい…っ!
悠人は器用に指輪を指ではじいて、キャッチする。
私は別に興味はないけど、目が勝手にその指輪の軌跡を追っていた。ほ、ほら…動くものに目が寄せられるってだけで…。
「はぁ…しゃーねーな、やるよ」
「ふぇ…っ!?えっ!?」
ため息をはいた悠人が…突然、
こ、これって!こんなの…!中指に通されたからフクザツだけどこんなのプロポーズと一緒…!
「えと…なんて言うんだっけ?」
そうやってとぼける悠人が、不自然に赤い顔でドモリながら口を開いた。
「あ、たしか~…。お、俺と一緒にいてくれ~ぇ…と、とかだっけ!?俺あんま覚えてねぇわっ!あはは…っ///
ま、まぁ…俺と一緒にいてくれ…///」
「…はっ、はい…///」
そんなプロポーズまがいのことされたら…っ!
薄れていく意識…そして…視界が切り替わった。
「ね、ゆうとっ」
…私が変わった。同時、悠人が顔をしかめる。
私は少し悲しくなったのか、胸を痛めた。
「…コレも告白に入るのかよっ!別にこの雪葉もぜんぜんいいけどもっ!」
そして簡単にその痛みはなくなる。私は単純かっ!?単純なのかっ!?
「だってプロポーズだし…当然、これも告白に入る…。それとも今の、プロポーズじゃなかったの…?…だったらかなしいな…」
私は悠人の耳元に口を寄せて囁く。悠人の匂いをこんなに感じて、私は大丈夫なんだろうか。私のことが心配になってきた。
私は一瞬躊躇して、私だったらドキドキして、絶対に言えない事を…言ってのけた。
「ゆうと、大好き…ありがとっ」
ドクドクと心臓が波打つ。な、なにこれっ…ちょっ、私?なにっ!?ドキドキしてるの…?
っ…ねぇっ…私…?もしかして恥ずかしいのにこんなこと言ったの…!?恥ずかしいの我慢して…?照れる悠人を見るために…?
「あ…あぁ///…ストレートにいわれると…めっちゃドキドキするんだけど…。その…お前も雪葉なんだよな?」
「ん、当然。私も雪葉…。
ゆうとが大好きで好きで好きで堪らなくて…寝る前にゆうとの事を考えてまで夢の中でもゆうとに会おうとする一途で恥ずかしがり屋の…ゆ、ゆうとのっ、雪葉…です…」
なんでそんなに好きとか言ってるのっ?心臓もう破裂しちゃうから少しぐらい自制してっ…私!?もう心臓こわれちゃうからっ…!
って!…それだけは言っちゃだめなのに…!変態さんだって思われるからだめなのにっ!クマさん抱きしめてると勝手に会いたくなるだけでっ!
し、仕方なかったっ!バカな私!?落ち着いて!?
夏休み会えなかったから悲しかったからっ…妄想するのは普通のことだからっ…!みんな
変態さんでもきっと悠人は私のこと受け入れてくれるからっ!
脳内で叫んでいると…悠人が懺悔するような声を出した。
「…しょ、正直に言います…。俺も同じことしてました…///」
例えば、彼氏が寝る前に私のことを考えてくれていたとしよう、恥ずかしすぎて、あとうれしすぎて死ぬ。
いくら私じゃない私でも死ぬ。
「え…?」
そう、そして言葉の意味を理解して…幸せすぎてドキッと胸がはねた後…再び足下が揺れる。
…そう、言葉通り、私じゃない私までもがふらっとする。え…わ、私恥ずかしすぎてそんな今っ…
「雪葉…すまん、ドン引きだよな…?」
「んん…おあいこさんだねっ…///」
例えば、彼女の口調が一瞬で変わったとする。つぶやく一言はこれしかない。
…ダレダコイツ?
PS:雪葉語で『んん』は『違う』、『ん』は『うん』の意味。
ヒ○ル、これ読んでたりするか?まぁ読んでる訳ないよな。
別に宝釣りのヒモがあたりに繋がってる訳ないの、あんたの年齢ならわかるだろ?宝くじ(祭り)にあたりがないのだってわかるよな?
なんでお前はサンタクロースはいないんだって、そんな夢のない事を"証明"するんだよ。言うだけにしてやめとけよ。
確かにあんたのやってる事は正で、屋台のおっちゃんは負だけどっ…。…そういうこと、してくれるな。
マジで社会がつまんなくなるから。
…と、いう怒りを悠人たちに代弁頼みました。
⭐️、❤️、宜しくお願いします!
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