第35話 (煙・雲)
(煙・雲)
流れるは気まずい沈黙……。
一体全体、この世界の何人が寝る前に彼女の妄想をするのだろうか。雪葉が2,4,8,16…と倍々に数える男がどれだけいるのだろうか。
2桁を超えた辺りで幸せすぎて発狂する男が……。
雪葉がそういう妄想するのは可愛いし俺が嬉しいからいいけど…俺がするとただの変態だ……。
「雪葉…すまん、ドン引きだよな…?」
「んん…おあいこさんだねっ…」
…理解するまでに数秒かかった。
「…えへへ……///」
俺が理解したと同時に雪葉が突然、にへらぁ、と笑う。
そして俺の手をいきなり握ってくる。ゆっくりと、赤ん坊をあやすリズムで俺の手をギュッと握る。
柔らかくて。思ってたよりは大きいけど俺よりもいくらか小さくて、あったかいその手はが…俺の心拍数をあげる。
…誰?
「ぁ…あの~?」
「えへ…ゆーと、夢でもわたしに会いたかったんだ…///」
からかいモードでも、ツンツンモードでもない。どちらかというとGWのときの雪葉に近い。
…甘ったるい、けどイヤじゃない声が鼓膜を震わせる。
「…ドン引きしないのか?」
「んん…わたしのこと、そんなに求めてくれてるんだ~って思ったら…気絶しちゃったの」
「はい……?もしかしてからかい雪葉が気絶したのか?」
「んっ……。わたしは…ゆーとのっ、雪葉…ですっ♡」
「はぁ……!?」
大声を出してしまい、周りの視線が集中する。
が…そんなことを気にしている場合ではなかった。
「3人目…だと?」
「んん……。何人目もない…わたしはわたし、はあまーいのがひゃくぱーせんとのわたしっ」
「へ?」
「いつものトゲトゲのこおりとっ……」
甘さ100%…可愛すぎだろっ!?なにそれ!デレデレじゃん!
雪葉の話を半々に聞きつつ、その情報に狂喜する。
あとなんかこおりって言うその言葉のチョイスセンスが可愛い!
「ゆーとのあかい顔を見たくて…恥ずかしいの我慢して自爆しちゃうわたし…。ゆーと、三角グラフってわかる…?」
…あ、あれ恥ずかしいの我慢してるんだ。道理でときどき言葉に詰まってるなって思ったのか。
三角グラフ…たしか三つの指標の割合を測るやつだっけ……?
ってことはまさかっ!?
「日によってえと~なんだ?ツンとからかい成分とデレの割合が違うってことか!?」
「そっ…理解が早くて助かる…」
「なるほどな。へぇ〜いろんな雪葉か…他の雪葉も見てみたいな…」
「…っ…で、でも今はわたし…なんだけど……。わたしじゃだめ…?」
上目遣いとは、遣う相手さえ
そして…遣う相手は間違ってない。間違ったとしても俺が嫉妬するだけだが…。
「だめなわけねぇよっ!」
「…っ、こえ、おっきぃ…目…恥ずかしいから…///」
俺の声に視線が集まる…と、雪葉は体を小さくして俺の腕にすがりついた。そして再び上目遣い。
遠慮がちに袖をつまみ、そのくせ体を寄せてくるのその矛盾が可愛すぎる。
「あ、すまん…けど、別に雪葉ならどんな雪葉でもいいしっ、遊ぼうぜ?」
「んっ…!あそぶっ…」
繋いだ手をブンブンと大きく振って、本気で嬉しそうに笑った雪葉が可愛かった。明るいのとも少し違う。
歩くこと数歩、すぐ立ち止まって、目を向ける雪葉。その視線の先は…?
「綿飴…か、食べるか?」
「ん…いい……かな?」
「もちろんだともよぅっ、何がいい?」
なんだろうか…庇護欲を駆られる話し方だ。どうしても雪葉が年下に見えてしまう。
雪葉はキャラ物の袋詰めの綿飴ではなく、棒に巻き付ける方を指差した。そしてすでによだれを垂らしている。
表情だけ見たらどこぞのロリキャラといい勝負だ。
…愛でたい、その一言が口からこぼれかけた。
「おっけー。おっちゃん!綿飴一個!」
「あいよっ!500円!」
巾着を開きかけた雪葉を止めて、500円玉を机に置く。
「へいあがりっ!どうぞ〜!」
「あざま~す」
「彼女さんはなすなよ~!」
煙をまとった棒を受け取って道端に寄る、その瞬間のおっちゃんがの言葉にドキッとした。
はなすな…それは手を離すな、なのか一生手放すな、なのか…。
どちらにしろ絶対はなさない、それだけは心に決めた。
「えへへ…彼女…///」
「ま、まぁ実際そうだしな」
「ん…ありがと。いただきます…」
いつもの雪葉なら煙をちぎって上品に食べそうだけど、今の雪葉は違った。
大きな煙にがぶりとかみついて引きちぎる。そして口元に湿った煙をつけながら、幸せそうに頬を押さえてうれしそうに笑った。
愛らしい、とても愛くるしい。
「ん~…おいしぃ…」
俺のデレデレ彼女が可愛すぎる件。
彼女自慢のブログのタイトル候補がまた1つ増えた。
そんな事で浮かれていると目の前を白い煙が覆う。
「ゆーとも食べて…」
「あ…いいのか?サンキュ……っ、うっめ~!」
何も考えずに食いついて…やっぱ甘ぇな…。
同時、気付いた。
口に入れる前から少し綿飴は湿っていたことに。
つまり…?
「…か、間接キスだぁ……えへへ…///」
「…っ!分かってやってたのか!?」
「…んっ……///いただきますっ」
雪葉は素直に大きく頷いて、少し煙を見つめてすぐ濡れて縮んだ煙にかぶりついた。
そしてこちらを見上げて、いたずらっぽく笑う。
「わたしも間接キスしちゃった……えへへ……///」
「っ…///」
その顔に本日、何回目かのドキッ、がきた。
それは最初に雪葉を見て富士山まで心臓がはねたドキッのレベルだ。
俺をからかいたかったからではなく、ただ単純に間接キスをしたかっただけの雪葉…。
恥ずかしすぎる。でも、こんなに俺を慕ってくれる雪葉が可愛すぎて…っ、気付いたら、思いっきり抱きしめていた。
「わっ…くも…危ないのに…」
いつもなら突き飛ばすか顔を真っ赤にしてブツブツと悪態を呟きそうだが…今の雪葉は違った。
俺に湿った煙があたらないようにしつつ、俺を受け入れて、俺の背中に手を回してくれる。
「えへへ…ばか…///」
「…っ…///」
「ちょっ…くるしい…くるしいゆーと…」
「あ、ごめん…」
抱きしめる力を緩めると、逆に離れかけた俺を引き戻すかのように雪葉が腕の力を入れた。結局あまり体の距離は離れない。
可愛すぎる…可愛すぎるじゃ足りないぐらいに可愛い。
数秒後、雪葉が少し離れて俺と顔を合わせ、ふと口を開いた。
「あ、ゆーとここにくもついてる…」
「え…?どこ?」
「いい、わたしが取る…」
瞬間、雪葉の顔が近づいてきて…。
「っ!?」
ゆーとの口についてる湿ったくもを舐め取る。甘ったるくて…すごくおいしかった。
そのまま反対側の唇のくもも食べてしまう。
棒についたくもとなんて比べちゃいけないほど、甘くておいしかった。悠人の真っ赤な耳も、目の保養に最適だ。
「…はぅ…すき…///」
「くっ…マジで…気絶するからやめてくれ…」
喉の奥から絞り出した苦しそうな声に、さすがにいたずらはやめることにした。
だから…再び悠人の方に頭を乗せて、抱きしめることにした。
…ずるい、私がしたかったのに…!
私の中の、バカな私はキスだのなんだの騒いでいたけれど…。
私がしたかったし…私が初めてがよかったのに…。私は私自身に、おおいに嫉妬していた。
そして…この私にデレてる悠人に不満を感じた。
PS:雪葉の人格はツンとデレとからかい、の三つの割合で構成されています。日によってそれぞれの割合が違うという設定です。
ちなみに、傍点のついた『私』はツンツンの雪葉です。
※三角グラフ…第一.二.三次産業の割合とかを示すのに使われるもの。
(煙・雲)で綿菓子のことだと気づいた人、すげぇ…。
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