第33話 (アイス・チョコバナナ)
(アイス・チョコバナナ)
「あ、ちょっとアイス食べてもいい…?」
よくラノベでは、いたいけな少女が棒アイスをなめるシーンを扇情的に書いてあったりする。なぜかは…黙っておこう。
…ついに俺のブログでも、彼女がなめてくれましたw、とかかける日が来たか…。
と、言う訳で…雪葉がアイスをなめる、か。
チョコバナナでもいいんだぜ?という変態的な言葉は封じ込めておこう。
雪葉はどうやって棒アイスをなめるんだろうか…ぐへへ…。
あれ…でも…?
「別に断りなんていらねぇけどアイス売ってるところなんて…」
周りを見渡すがアイス売りの屋台は見当たらない。
「このアイス…悠人もいる…?」
雪葉が手に掛けた巾着からお菓子を取り出していた。食べるとヒンヤリしてシャリシャリするやつだ。
なんというか…雪葉らしい。
考えてみると、雪葉が棒アイスをなめるシーンが想像つかない。一口アイスを口に放り込む方が似合ってる気がした。
「あ、あぁ…ありがと」
「なに味がいい?」
「えと…いっぱいあるんだな。じゃあブドウある?」
「ん…」
ブドウ味の袋を探り当てた雪葉が1つ取り出して俺に向ける。
…この形、あ~んの形だ。え…あ~んしてくれるの?
期待して、近づく…が。
いくらデートで、夏祭りイベントで、ついさっきまで甘え成分の多かった雪葉であっても…恥ずかしかったのか。
雪葉は伸ばしかけた腕を引っ込め、半身で身体を守るようにして、叫んだ。
「っ!別にっ…違うっ…そんな食べさせてあげるつもりじゃなかったからっ!…自分で食べてっ…///」
「…ちっ…わかったよ…」
いやホントにっ!私は悠人にあ~んする気なんてなくて…なくて…なく…て…。
…いつかは…それぐらいできるようになりたいなって…思ってるだけ…だから!
「ありがとな」
「ん…」
雪葉はふいっとそっぽを向き、もうひとつ取り出して自分の口に放り込んだ。
そして宙を見上げて数秒、表情を崩して幸せそうに笑う。
別に…別に雪葉にこんな表情をさせるこのお菓子に嫉妬とかはしてない。さすがに俺もそこまで子供ではない…はずだ。
「おいしぃ…」
「そんなに好きなのか?食べてるところみたことないけど」
「ん…試験前終わってからの楽しみにしてたから食べなかっただけ…はぁ…」
幸せそうにため息を吐いた雪葉。機嫌がいい今ならいけるかも知れない。
そんな俺のバカさ加減には後になってから自分でも呆れる。が…人間はその時々の自分など、客観視できないものである。
「なぁ雪葉、チョコバナナ食べてくれよ」
「なんで…?」
だから…死亡確定ルート行きの台詞だってこう易々と言えてしまうのだ。
「チョコバナナ食べるのエロいか…ゲェッ…」
言い終わる前に巾着で顔を殴られた。
「っと…他になんかしたいことあるか?」
人混みから外れて、屋台裏の木陰で休憩する。
金魚すくいもしたし、焼きそばも買って食べた。もちろん…一人一パックづつ、だけど。
間接キスイベントとかあるかな〜と思ってたけど、なかった。
「遠慮なく言えよ?せっかくの祭りなん…」
すっ…
「あ~?雪葉さん?」
ひんやりした腕が俺の首にまとわりついた。俺のうなじで組まれた指、その爪が俺のうなじを優しくひっかく。
暗くて雪葉の顔はよく見えない、けど…多分真っ赤だと思う。俺の顔も真っ赤だと思う。
雪葉が俺の首に軽く腕を回し、ハグする構図ができていた。
「悠人…今日はちょっと…が、がんばるから…///」
言葉の意図が分からないのですが…。
っ!?…もしかして…これからキス?キスシーン!?
そんなの脚本にはないぞ!?いきなりキスシーンとかっ、この作品完結するの!?
頭がグチャグチャになる。もう、訳がわからなくなって、一周回って冷静になった俺はリップクリームを塗らなかったことを後悔しだした。あと
「その…いつもありがと…///」
「…」
「お、お礼に…」
首に絡まる腕がすこしキツくなる。甘い雪葉の吐息が、首筋に掛かる。ドキドキと心拍数を確実に上げていく。
「ぎゅってしてあげる…から…///」
胸が甘いもので包まれて焼かれるような、不快じゃない、もやっとした感情が、心を包む。むしろ心地いい。
ドロドロにとけた熱いものが心臓を伝う。
雪葉の肘裏を首で感じると同時に、雪葉がすぐ近くにいるのを感じた。…近く、じゃない。真ん前に。
俺の腕は、自然と雪葉の背中に上がって…。
「っ!」
俺の手が雪葉の背中に当たった瞬間、雪葉は我に返ったのか、身体が跳ねる。
「…その…恥ずかしいから…イジワルしないで…///」
でも俺からは離れず、可愛い声でそう呟いた。
心臓が痛いほど跳ねる。背伸びした雪葉が俺の肩に顎を乗せる…なんてことこそ、しなかったけど。
ぽすん…
けど、腕を緩めて俺の鎖骨あたりに額を押しつけてきた。そしてぐりぐりと、強く押す。
「…ばかっ…ばか、ばかばか…」
そしてそんなことをつぶやきながら俺の肩で自分の額をたたきだす。なんとなく、この可愛すぎる雪葉の肩に手を添えた。
こ…こんなの…ずるすぎる…。こんなのされたら誰でも恋に落ちる…。
惚れ直した…と、そう気づいた。
そのまま時間が過ぎ…もう何時間たったんだろうか…実際は3分もたってない、そんな現実味のあるツッコミなんて求めてない。
もういっそこのまま時間だけが過ぎて…なにも変わらずに終わっちまえばいいのに、とまるでラノベみたいなセリフすら頭に浮かんだ。
「…はぁぁぁ…///」
深呼吸2割、幸せ3割、恥ずかしさ5割なため息を吐いて雪葉が離れる。そして俺に背中を向けて顔を隠し、しゃがみ込んだ。
「雪葉?気分悪くなったの…?」
「こないでっ…」
…がびーん。と、よくふざけた効果音を出せたと自分でも感心する。
が…雪葉の言葉の意味を理解して、体が傾き始めた。
あれ…胸が…いたい…。
「今来られるとっ…ヘンに…なる…///ドキドキして…」
…その一言で心肺停止が復活するなら、俺は多分いくつまででも生きてられる。確信した。
胸の痛みなんか一瞬で消えた。単純とか言うなよ?雪葉の影響力がすごいだけだ。
「わ、わたし…その…今ならできると思ったから…ちょ、ちょっといつもと違うけど…っ、私が
翻訳すると、ツン以外の自分もいるけど、ツンが一番多い割合だからどうのこうの…。
正直そんなのどうでもいい、どっちの雪葉だろうが、俺を好いてくれているのであれば、別にどっちの雪葉でもいい。
さっき、近づくな、と言われたことも忘れて、俺は雪葉のよこにしゃがみこむ。
「その…」
「ありがとな。雪葉」
「っ~!」
そう言えば雪葉の特性をすっかり忘れていた。
いっつもツンデレだけど、完全に2人っきりの時はただの恥ずかしがり屋の可愛い女の子なんだ。
俺の前だけでしか見せない雪葉の顔。そう思うと興奮する。
雪葉の肩に片腕を回し、今度は俺から、雪葉を軽くホールドする。ビクリ、と雪葉の体が跳ねる。
ひさしぶりに、決め台詞が決まったんじゃないだろうか。
「俺からも、お礼だ」
「っ~///」
キュ〜…ぱたん…。
この後、気絶した雪葉のかわりに、チョコバナナ食べてあげようか?とかホザくもう一人の雪葉がやってきたけど、それは後のお楽しみ。
俺はからかってくる雪葉を押しのけて、屋台道に戻った。
…もちろん、…手を繋いで…だ…///
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