第10話 (独り占め・エロイプ)
(独り占め・エロイプ)
「あ」
そういえばメアドと電話番号。
情報の授業中、タイピングしながら俺はふと思い出した。
今更、今更過ぎる事だ。付き合っているのに連絡先を交換していなかったのだ。
メールできるようになればもっと簡単に連絡取れる。そうすればもっと一緒に出かける事が出来るようになる。
あと夜にエロい話してエロい電話して……ぐへへ。
変態的思考を振り切るために頭を振り、そのついでに時計を見ると、授業終わりまでまだ20分あった。
「雪葉、メア――」
待て。
「悠人何?」
「ここどうやってレイアウトしたらいいと思う?」
俺が雪葉にメアドを聞くのが恥ずかしい訳じゃない。
テキトウに思いついた質問をしておいて、思考と感情を整理する。
メアドは俺が聞くより、雪葉に聞かせた方がいい。絶対そっちの方がいい。
なぜなら、雪葉の恥じらう顔が見れるからだ。
よし、思考の整理完了!
その次に、心の、喉の奥から絞り出すような悲鳴を聞く。
恥ずかしい……なんでこんなに恥ずかしいんだっ! たかだかメアドを聞くだけなのにっ!
こんなの兄貴に見られたら馬鹿にされる……ハッ。
いや、まぁ俺はね、別に雪葉にメアドを聞くのが恥ずかしい訳じゃない。
「えっと……」
雪葉が身体を当てないように気をつけながら俺に近づく。そのせいでつい先日の事を思い出し、ホントに今更ながら、顔が赤くなった。
あと、相変わらず雪葉の髪の匂いでドキドキした。
ディスプレイに指を当ててちょこちょこ動かす雪葉が小動物みたいで可愛い。
気がつくと、腕が雪葉の髪に伸びていた。手が当たる寸前で理性がかかり、さっと戻す。
「悠人?」
「っ! 何?」
髪を触ろうとしていた事がバレたのかと思って身体がビクッてなる。……が、その反応を別の物だと勘違いしたようだ。
具体的には『驚き』。人は驚いたときに身体を跳ねさせる。
それは突発的な刺激に身体が対処しようとするためであり――
「……ボーッとしてる?」
「あ、あぁ……ちょっと寝不足でな」
再びテキトウに応える。まぁ事実、少し寝不足でもあるが。
なんでこんなにも、心の中の独り言が多くて早口なのかというと、小首を傾げて、顔を寄せて、上目遣いで、俺を見つめる雪葉にドキドキしているせいだ。
こんなに顔が近くなるんだったらミントタブレット飲んどけばよかった。
多分無臭であろう口臭をいつも以上に気にして口を閉ざすと、必然的に鼻呼吸になる。
微妙に花粉症な俺は、若干鼻が詰まっている。つまり、鼻息が荒くなるのだ。
顔が赤い、鼻息が荒い、これをまた勘違いしたのか雪葉が的外れなことを言った。
「大丈夫? 寝てていいから、私やっとく。悠人風邪かも知れないし」
「へ? いや、えと……風邪だったら移す可能性とか――」
「その、枕とか……抱き枕とかが必要なら。いつかわ、私の言うこと一回聞くなら、私を使ってもいい。許してあげる……///」
俺の言葉を最後まで聞かずに捲し立てられる。
ちょっと恥じらいながらも、今日の雪葉は積極的だ。
逆に俺が恥ずかしいぐらいだ。
「ボーッとされて課題が進まないよりはマシだし。いつもタイピングやってくれてるし。ご褒美」
風邪は引いてないけれども、多分ここで断ったら一生後悔する。
そもそも、雪葉が少しやりたそうに見えるんだから、断るという選択肢は存在しない。
「ほら……と、特別だからっ……」
雪葉の手が俺の頭に触れる。その手は少しだけ、多分羞恥心から震えていた。
そのまま引き寄せられてすっぽりと雪葉に埋まった。
雪葉の心臓の音がよく聞こえる。やっぱり少し速い。
そして突然、眠気が襲ってくる。
「寝てていいからっ……///」
雪葉の慌てた声と共に、俺は眠りに落ち――
私は無意識に悠人の頭を撫でていた。
「ゆき……は」
悠人が起きてしまったかと思ってびくりとするが、寝言のようで安心する。そして手は再び悠人の頭を撫でていた。
昨日のアニメでこんなシーンを見てしまったからか、やってしまった。
憧れという物は私にだってある。少しぐらい、悠人と甘い空気を過ごしたかったりする。
でも恥ずかしいから、こうやって悠人が寝ているときぐらいしかアニメみたいな事は出来ない。
スースーと寝息を立てている悠人は、少し独占欲が高すぎる気もするけど、絶対に他の誰にも見せない、私だけの物だ。
目が覚めると柔らかい物で包まれていた。顔を上げると目が合う。
茶色い光彩が凄く綺麗で……雪葉!?
「おはよ……///」
「あ、おう、おはよ」
いや、何かが違う気がする。確かに挨拶も大事だけれど。
ゆっくり雪葉から離れる。落ち着いて考える。そして今更だけど、雪葉に抱きついて寝ていたのだと知る。
「っ! えとっ、えとつ、ご、ごめんっ」
「ん」
何を謝ればいいのか分からないけれどとりあえず謝る。
雪葉は視線を逸らして、顔を赤くしたままだ。指先をクルクル回してもじもじしている。
そんな雪葉を見ながら記憶をたどって――
「ちょっ! はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
あの雪葉は自分から!? 俺を寝かせてくれた!? 雪葉の胸で!?
時計を見ると授業終わりまであと10分、ってそれじゃない。
「うるせぇよ悠人。なんかあったのか?」
「あ、いやなんでもない。レイアウトミスっただけ……」
「じゃあ黙れ」
いい感じの、ラブコメチックな雰囲気とシーンで割り込んできたザキヤマは後でぶっ倒しておこう。
ってソレも違う、なにをすれば……えと。そうだっ!
つい10分前の事を思い出す。
俺の悪い癖は思い付いたことをすぐに言ってしまうことだ。
「雪葉、メアドと電話番号交換してエロい会話とエロい電話しようぜ。
あと……女の子の胸って小さくても柔らかいんだな」
何か重大な間違いをしてしまったことまでは覚えている。
言ってはいけないような事を、人間としてクズな発言をしたことは覚えている……が。
俺はそこからの記憶が無い。
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