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イグナシオ・サラゴサに着いた森須は、ぐったりとしたランダを安静にする場所に困っていた。医者のいる家に預けることも考えたのだが、目がぎょろぎょろとした医者に不安が残った。そこで、彼は自分が宿泊するコンクリート造りの平屋で寝かせようと考えた。彼の宿泊する平屋はとても簡素なもので、ベッドとデスクとクローゼットが一つずつ無造作に置かれ、シャワーやトイレはなく、近くにある共用の施設を利用しなければならないと言う不便さだったが、ここ以外に空いている宿がなかったのである。
医者に診せたり食料を買い出しに行ったりと、平屋に着いた森須は休むことなく動き回った。一通りやることを済ませた頃には日はだいぶ暮れており、ランダも優しく閉じられた瞼をゆっくりと開けていた。
「医者によると二、三日は絶対安静だそうだ」
ペットボトルに入った水をランダに渡しながら森須は言った。ランダは「ありがとう」と受け取ると、一気に中身を半分ほど飲んだ。よほど喉が渇いていたのだろう。
「……さて、と、だ……」
言い淀みながら森須は会話の口火を切った。
「尋ねたいことがたくさんあるんだ。どうして君はあそこに、あんな軽い服装でいたんだ? あそこには危険な生物がたくさんいる。よほどこの地に慣れていない限り、あんな軽装で行かないと思うんだが……」
「話が長くなるけど、それでもいい?」
ランダは上体を起こすと、こちらを下から目線で見てきた。
「ああ、かまわないよ」
ランダは息を深く吐いて膝を抱えるように座ると、ポツポツとしゃべり出した。
「私はパナマである大物弁護士を警護していたの。政治家や大企業の社長をはじめ、大富豪や資産家などみんな彼を重宝していた。そんな彼が何者かに殺されたの。そして私はその濡れ衣を着せられた」
そこまで言うと彼女はペットボトルの水を一口飲んだ。
「濡れ衣を着せられた、と言ったって今の警察の力ならなんとか出来るんじゃないか?」
「バカね。パナマの警察なんて金さえ渡せば殺人ですらもみ消してくれる、金持ちにとっては便利屋のようなものよ。大物弁護士を殺すような奴が彼らに根回ししていないと思う? 私が何を言ったって、私が殺人現場にいたというだけで彼らは私のことを犯人にすることが出来るわ」
ランダは膝を抱える力を強くした。
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