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「今日はやめときます。あんな光景を見せられてはとうぶん女の子と夜を共にする事は出来ませんよ」
ジョセフは寂しそうに笑った。
事件解決に乗り出した小練たちだが捜査開始から一週間後、事態は大きく動いた。
なんと捜査本部がヘレナを持病の発作による病死ということで強制的に終わらせたのだ。捜査員たち、中でも小練はその判断に納得がいかなかった。他の捜査員たちが上の決定だからと諦める中、彼女だけは一人で捜査することを決意した。
彼女は病死という結論を出した技術局へ向かった。技術局にはそう、あのジルがいる。
「どういうつもり? あなた、あの時病原性のものではないと言ったわよね!」
彼女はジルのデスクを勢いよく叩いた。
「僕は彼女が病死だなんて検死報告には一切書いてない。上が勝手にそう書き換えたんだ。この事件は上がそうせざるを得ない何らかの巨大な圧力がかかっている」
「巨大な圧力?」
小練はジルの言葉を繰り返した。
「ああ、ミス・小練。君は弟のためにも何としても捜査を続けるつもりだろうがくれぐれも気を付けてくれ。君は優秀な人材なんだ」
ジルは丸メガネの奥にある目を細めた。その目からは捜査は諦めろという意思が垣間見えた。
「ありがとう、ジル。でも私、弟をあんなにした犯人が許せないの。一人になってでも絶対に見つけてやるって神に誓ったから」
彼女の言葉を聞くと、ジルは目を細めるのをやめ、デスクの引き出しから紙束を取り出した。
「これが正確な検死報告書だ。本当はコピーも含めてすべて処分されているものだ。持っているだけで規則違反になるから気をつけて」
「ジル、あなた……」
「なに、技術局のエースもたまには魔が差す時があるんだ。ワイン一杯分の貸しにしといてくれ」
不安気な表情を見せる彼女にジルは微笑んで見せた。
「ありがとう、ジル。事件が解決した暁にはワインをおごるわ」
小練は紙束を受け取ると彼のもとを去った。
彼女がインターポリスに入り、この事件を追うことになるのはそれからしばらく経ってのことである。
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