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いもので、昔から推理力に長けていた小野世は最初の数ページを読んだだけで犯人が誰かを当ててしまった。
こんなもの子供だましにも程があるという小野世の言葉に、作者の一文字十郎はむきになったのか、最後に意味が分からないどんでん返しを持ってきた。これは本格推理ではないと軽くあしらった次の案は、小野世でも一瞬考えてしまうほどミステリーとして質が上がっていた。
この設定をもう少しいじればうまく行くのではないかとアドバイスを重ねること数回、作品名「諸星の涙」は難解に見える謎は種明かしされると全てが腑に落ち、さらには事件の裏に隠された切ないエピソードと物語の結末が感動を呼ぶとして話題もちきりの小説となった。今やその人気は最高潮に達しており、間もなくミリオンセラーに手が届くかというところだ。
あんまし無理なんてするもんじゃないな。
小野世は出された博多ラーメンをすすった。コシのある細麺と一緒に口の中に入ってくる豚骨スープが舌を満足させる。
ラーメンも食べ終わり、そこで竹内と別れた。別れ際に竹内は言った。
「そういえばお前さん、先日来てた持ち込みの原稿はどうなったん?」
小野世は神崎守の小説を思い出した。とりあえず二章まで読んでみたが小練とモランの話の共通点がわからない。しいて言うならば、それぞれ血を全身から噴き出して死んでいる人間がいるということだ。
「まださわりしか読んでません。今夜ゆっくり読んでみようと思います」
小野世はふとそんな言葉を口にしていた。何故そう言ったかは本人ですらわかっていなかった。もしかしたら、さっき飲んだビールのせいかもしれない。
「あんまし無理すんやないで」
竹内はにまっと笑うと、きびすを返して歩き始めた。
まだ序盤だしな。この後うまくつなげてくるのかもしれない。
小野世はこの後の展開に少し期待を膨らませつつ、歩調を早めた。
第三章
真っ暗闇のなか聞こえてくるのは幾多もの無線……
ザザッというノイズの後には人々の悲痛な訴えと断末魔の叫び。
ブッ
ひときわ強い単音のノイズは無線機が壊れたことを意味する。それは無線機の所有者の死を意味した。
ブッ、ブッ、ブッ
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