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その二
東京に夜という概念はない。どこかで明かりがともり、人々が汗水たらして働いている。この時間帯だとバーには朝まで語り明かすと誓った人々が集まり、キャバクラには男が女にお酒を振るまい、クラブでは本日のメインDJが登場し、重低音のある曲を大音量で流し始める。
「すみません、夜遅くまで付き合っていただいて」
東下線の終電に揺られながら小野世は竹内に言った。つい先日、小野世が担当する作家の作品が映画化されることが決まり、その打ち合わせなどでここ一週間は竹内に助けられた。
「なぁに、たいしたことやないって。後輩の晴れ舞台を整えるのも先輩の仕事や」
竹内は鼻をこすった。
「しかし、どないしてお前さん今回の企画あんまし乗り気やないんや? 映画化の企画自体も制作会社の方から持ってきたって言うやないか」
ラーメンを待っている間、生ビールを片手に竹内は訊いた。
「あんまし、面倒くさい仕事はしたくないんですよ。そもそも編集部に来たのはのんびりしてそうだな、と思ったからなんで」
それを聞いた竹内はぽかんとすると、ゲラゲラと笑い出した。
「お前さん阿呆か! 編集者がそんなのんびりなわけないやろ。ただでさえ会議やら企画やらで大変やと言うのに、加えて担当の先生が人気になれば、その分仕事が増える。勤務時間が不定期になるわ、残業が増えるわで、うちのカミさんもあきれ返っとるわ」
「やっぱり、今回は頑張りすぎちゃいましたかねぇ」
小野世は映画化した作品のことを思い返した。その作品はシリーズものとしてまあまあ評判のあった本格推理刑事小説の第三作だった。その原案は今思い出しても本当にひど
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