23ページ目
男が丁寧な口調で訊いてきた。
「はい、そうですが……あなたは篠塚さんではありませんね?」
法案は嫌な感じがして聞き返した。
「わたし、ロンドン市警のユナン・アーワライトと言います。失礼ですが、篠塚さんとはどういったご関係でいらっしゃいますか?」
「関係もなにも今日初めて会う予定だったんだ。四日前に彼が持ってきた仕事の説明を受けるためにね……。彼に何かあったのか?」
しばらく間が空いた後、ユナンが口をこもらせながら言った。
「ああ……李さん。大変申し上げにくいのですが、篠塚さんは二日前に亡くなられています」
「なに?」
法案は耳を疑った。確かに彼は篠塚が二日前に亡くなったと言ったのだ!
「そんな話、私は聞いてないぞ!」
「しかし彼は現に亡くなっているんです!」
ユナンは語気を強めて言い返した。
「電話ではらちがあきませんので、一度署の方まで出頭願えませんでしょうか?」
「まさか、私を疑っているのか?」
法案のいらだちは限界まで来ていた。
「いえ、そういうわけではございません。ただ事情を説明したいだけでして……」
「なら、そっちがこっちに来ればいいのではないか? そもそも私は彼とここで待ち合わせをしていたんだ」
電話から数人が話す声が聞こえる。どうやら仲間と相談しているようだなと法案は推測した。
「わかりました。今から私が向かいますので場所を教えてください」
法案は店の名前を教えるとユナンは「すぐに行きます」と言って電話を切った。
やれやれ、大変なことになった。最初は夢にまで見た未完の名作の続きを書く話だったのに、刑事事件の参考人として聴取を受ける羽目になるとは……。
法案はアルバイトの学生に二杯目のコーヒーを頼んだ。
そこから約三十分経ってカフェの入り口に一台のタクシーが止まった。タクシーから降りてきたのは小太りで髭を鼻元に生やした中年の男だった。彼は麦色のトレンチコートを身にまとい、同じく麦色のシルクハットをかぶっていた。もしこの世に名探偵ポワロが実在するのなら、こんな人物ではないかと思うくらいの容姿をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます