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「遅れて大変申し訳ございません。わたし、さきほど電話をお受けしたユナン・アーワライトです」


 ユナンはぬれた体をハンカチで拭きながら手を差し出してきた。


「李法案です」


 法案は握手に応えるとバイトの学生を呼んでコーヒーを追加で注文した。


「それで、篠塚さんの件ですが……」


 出されたコーヒーを飲むユナンに法案は訊ねた。


「はい。事件は今から丁度二日前に起こりました。被害者の篠塚守さんが滞在先のホテルで全身から出血して倒れているところをホテルの従業員が発見して通報しました。現在殺人と病死の二つの線で捜査を行っているところです」


 ユナンは再びコーヒーに口をつけた。


「篠塚さんのスマホの発信履歴も見てみましたが四日前に電話をした形跡は残っていませんでした。なので、我々は篠塚さんが他の機器を使ってあなたに電話をして自分のスマホの連絡先を教えたのだと推測しています。そしてあなたを尋ねにロンドンを訪問したところ、死亡しました。原因はわかっていませんが……」


 要は何もわかっていないってことだな。まあついさっき発覚した事実だから仕方ないか。


「そこで、李さん。あなたにいくつか質問があるのですがよろしいですか?」


 半分飲んだコーヒーを置くと、ユナンは懐からペンと手帳を取り出した。


「事件があったと思われる一週間前の夕方から夜にかけてどこで何をされていましたか? ……ああ、もちろんこれは形式的な質問で事件の関係者全員に訊いています。決してあなたを疑っているというわけではありませんよ」


 ユナンは目を細めて微笑んだ。


「一週間前は、日中は仕事をして、夕飯は妻を連れて市内のレストランに行った。もしアリバイになるのならそこの店員を訪ねてみるといいかもしれん。『エル・ピタラ』という評判の店だ」


「篠塚さんとはどういった用件で会う予定だったのですか?」


「左塚治氏の『月の鳥』の続編の打ち合わせをするはずだった」


「その内容は篠塚さん本人から聞いたのですか?」


「いや、その話を聞いたのは妻からだ。私の仕事は全て最初に妻を通してもらうことにしているんだ」


「なるほど……わかりました。ありがとうございます」


 ユナンは手帳にペンで走り書きすると閉じて懐に戻した。


「私からも質問をいいかな」

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