34ページ目

 翌日、森須は本来の目的に戻ろうとしたが、ランダが一人になることを拒んだため彼女の体力が回復するまでの間はイグナシオ・サラゴサにいることにした。


「そういえば、あなたはどうしてここに来ようと思ったの?」


 町のピザ屋で買ったピザを宿泊する平屋の中で食べていると、ランダが聞いてきた。


「俺は数年前まで軍に入って、そこで仲良くなった親友がいた。名前はノボウ・タダといって、一時期彼と同じ部隊に所属した際に意気投合して親しくなった」


 森須はマンゴージュースを一口飲んで続けた。


「しばらくして俺は軍を辞めたんだが、ノボウとはその後も連絡を取り合っていた。そんな彼が一ヶ月くらい前に忽然と姿を消したんだ。謎のメモを俺に残してな」


 彼はポケットからチャック袋を取り出すと、ランダに見せた。チャック袋の中には紙切れが一片入っており、そこには一行で書かれた文章と、十数桁の数字の羅列が記されてあった。


『だれでも、求める者は受け、探す者は見つけ、門をたたく者には開かれる。

2081945287436711』


「マタイの福音書の言葉ね」


「ああ、よく知ってるな。ノボウが好きだった言葉だ。これが彼が行方不明になって数日経ってから俺の家のポストに入っていた。字は間違いなく彼のものだ」


「なるほどね、でもそのあとに書いてある数字の意味がわからないわ。いっけん数列にも見えないし……」


 ランダはサインペンで殴り書きされた数字の羅列を見て首をかしげた。


「俺も最初、この数列の意味がわからなかった。彼の行き先を示す暗号かと思って一通りの方法試みたが、これといって手応えがなかった」


 森須は再びマンゴージュースを一口飲んで続けた。


「しかし解法は思わぬところにあったんだ。十六桁ある数字を八桁ごとに真ん中で区切ってみると、その数列が座標になることに気がついたんだ」


「よく気づいたわね」


 ランダは感心した声をあげる。


「むかし、彼と遊んでいたシュミレーションゲームで八桁の座標をよく使っていたんだ。こんなこと、俺じゃなきゃ気づかないだろうな」


 森須はかつてノボウと一緒だった頃を思い出して愁色のある微笑みをみせた。


「座標とわかっても、それが示す場所は四つある。北緯なのか南緯なのか、東経なのか西経なのか。そこで、地図を調べてみたらこのユカタン半島を除いて、他三つは全て海上を指していた。だからここに来たっというわけだ」


「なるほどねぇ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る