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震えた声でランダはつぶやいた。森須は「あいつら」というのがランダを連れ去った集団だとすぐに理解した。この先にノボウの手がかりがあるかもしれない。しかし、このままだと到底先へ進めそうにない。
こういった状況の対処法を森須は軍にいたときに教わっていた。しかし、彼はそれを使うか迷っていた。それを女性に対して使ったことがなかったから。
昔から彼は女性という生き物が苦手だった。何を考えているのかさっぱりわからず、集団を形成して陰で話していたかと思えば突然滑稽きわまりない笑い声を出し始める。そんな彼らと一緒に過ごすことが苦だった森須は中高は男子校に通い、高校を卒業してからはほとんど男しかいない軍に入った。
しかしいま、失踪した親友の手がかりをつかむことが出来るかもしれない唯一無二の機会が目の前まで来ている。
やるしかない、か……。
森須は深く息を吸うと、覚悟を決めた。ランダの手を取り、手の平の中央にあるツボ、労宮を強く押す。同時に彼女の頭の頂点にある百会と呼ばれるツボも押した。どちらも緊張を緩和してくれて、気分をリラックスさせてくれるツボである。
「だいじょうぶ。落ち着いて。いざというときは俺が守ってやるから」
森須は彼女の耳元でそう囁いた。彼女の甘い香りが彼の鼻腔を満たしたが気にしないように努めた。
「……ホントに……?」
ランダは森須の顔を見上げた。その目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「ああ。いざという時はこいつを使うさ」
そう言って森須は腰にあるウエストポーチを揺らした。中には検問にばれないように持ち込んだ二十二口径のマグナムガンがカチャカチャと音を鳴らした。
「ありがとう。……だいぶ楽になったわ」
ランダは森須の手を借りて立ち上がった。
「さあ、行こう!」
通路は間違いなくノボウのメモが記す座標に向かっていた。しばらく進んでいくと森須の耳だけに聞こえる小さな声が通路の奥から聞こえてきた。
「止めてくれ! 俺たち、あんたの指示通りやっただろ……どうして……」
その声が聞こえた瞬間、ランダが鼻を覆う仕草をした。
「通路の奥から血のにおいがする。誰かが血を流しているわ」
「そんなことがわかるのか?」
「ええ、昔から人より鼻がききすぎるのよ」
ランダは自らを嘲るようにそう言った。
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