38ページ目
「先に進めそうかい?」
先ほどのことがあったので、森須は少し心配になって聞いてみた。しかしランダは
「大丈夫! 誰かさんのおかげでずいぶん落ち着いているわ」
と言って、森須の方を見てからかうように笑って見せた。
ずるいなぁ……。
森須は慌ててランダから目をそらした。
「……大丈夫なら先に進むぞ。目的の場所までもうすぐだからな」
彼はゆっくりと通路の奥へ歩き出した。石造りの通路はずいぶん前に造られたのか、所々腐食している箇所が見られ、今にも崩れないか心配だった。
そんな心配事をしていた矢先、彼らをさらに不安にさせることが起こった。突然、通路の奥から恐怖をはき出したような断末魔の叫び声が聞こえたのだ。その声は狭い通路にまんべんなく響き渡り、ありったけの懼れと震撼を二人の心に塗りたくっていった。
森須は静かにウエストポーチの中に手を入れ、マグナムガンを手探りで取りだした。ゆっくりと銃口を前に向け、抜き足差し足で前へ進んだ。十数メートル歩いて開けた空間に出たとき、二人はその光景に絶句した。
そこは何かを祀る神殿の最深部のような場所だと推測出来た。部屋の両端には石をいびつな形に彫刻した松明が置かれていて、気味悪く辺りを照らしていた。そして中央には様々な彫像が置かれていた。それこそ様々な……。
「どういうことだ、これは……」
森須の口から出た言葉はそれだった。
「アヌビス! ……どうしてこんなところに……」
ランダの視線の先には頭が犬で胴体が人間で有名なエジプト神話のアヌビスの石像が置かれていた。
「それにヒンドゥー教のシヴァ、イエスの十字架像、仏教の千手観音。他にも見たことのある石像がたくさんあるわ」
興奮して口調が荒くなるランダと異なり、森須は何も言えず黙ったままだった。
どうしてこんなところに世界各地の神話や宗教の石像があるんだ? それより……。
森須は左手の壁の方を見た。そこには男が二人、全身から血を流した状態で両手足を杭のようなもので壁に貼り付けにされていた。
「こいつら、わたしを攫った奴らだわ。それにこの死に方、わたしが警護していた弁護士と同じ死に方だわ。でもいったいどうやって……」
ランダが森須の横で、眉をひそめて言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます