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 なんの躊躇いもなくデリカシーのないワードを出すジョセフに苛立ちを覚えながらも、小練は先を話すよう促した。


「そう、それで彼女とキスをしたときに間違って彼女の唇を噛んでしまったそうなんです。まあ初めてのキスなんてそんなもんなんですけど、その後から彼女の様子がおかしくて……。急に苦しんだ素振りを見せたかと思ったら、目や鼻から血がどんどん溢れるように出てきて、次第にというんです。こんなことあり得ます?」


「普通ならあり得ないわね。でも、優斗は嘘をつくようなことは絶対にしないわ。それが事実なんでしょう」


「けど上層部は嘘だと思っているらしいですよ」


 ジョセフのセリフに小練はイラっとした。


「どういうこと? 優斗を犯人だと思ってるの?」


「いえ、必ずしも優斗が犯人だとは思っていないそうです。ただ彼が黒であろうと白であろうと、あの証言には現実性がありません」


「あながち現実かもしれないよ」


 アパートの方から声がしたので小練は振り返った。見るとパリ警視庁技術局のエース、ジル・スエーニョが白衣のポケットに手を入れて入り口から出てきた。


「第一発見者の言っていることは至極正確だよ。さすが君の弟というところかな、ミス・小練。……おっと、ゴメンよ」


 入り口で立ち往生していたため、後ろから来た鑑識二人にジルはぶつかった。鑑識二人は担架を持っており、担架の上はビニールシートで覆われている。ビニールシートの下を確認することは出来ないが、中にヘレナがいることは明らかだった。


「それでジル、優斗の証言に信憑性があるという確証はあるのかい?」


 ジョセフは少し食い気味に尋ねた。


「ああ、彼女の死因は失血死だ。詳しいことは本部に持ち帰ってみないとわからないが、なんと彼女は体中の汗腺から出血を起こしていた。人体にある汗腺の数はおよそ二百万個。そのすべてから出血したとなれば、肌から血が滲ん出来たという表現は間違っていないだろう」


「全身の汗腺から出血? そんなこと出来るのか?」


 ジョセフは首を傾げた。

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