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 被害者は優斗の彼女、ヘレナだった。彼女を見た小練は嘔吐しそうになる。ベッドの上に倒れる彼女の全身からは血がにじみ出ており、白いキャミソールワンピースは血色に染まっていた。今まで見てきたどの殺人現場よりも悲惨だった。


「うっ、これは……」


 小練の次に現場に入ったジョセフも、表情をゆがませた。


 とにかく、優斗を遠ざけて現場を保存しなければ。


 小練は立ちすくむ優斗のもとへ行った。


「優斗、わかる? 英理よ。辛いのはわかるけど、いったんここを離れましょう」


 優斗を部屋から出させようと、彼の肩に触れた。しかし、彼はピクリともせず、体温すら感じられないほど冷たかった。


「うん、わかった……、英理おねえちゃん」


 優斗は虚無的に応えると、部屋を出て行った。


 しばらくして鑑識が到着し、現場保存がなされた。しかし、いくつもの悲惨な現場を見てきた彼らでさえ、ヘレナの遺体を見て痛ましい表情を滲ませた。





 天気予報は見事に当たり、雷雲が立ち込めて強い雨が降り出した。口が回るマダムたちも解散してそそくさとそれぞれの家に帰ってしまった。


 一体だれが彼女をこんな目に……。そしてどうやって?


 小練は雨の中をずぶ濡れになって規制テープをアパートの周辺に張っていた。今、部屋の中では鑑識が現場検証を行っており、別室では優斗が他の捜査官に事情聴取を受けている。


「先輩、少しいいですか?」


 寮の中からジョセフが出てきた。


「実は弟さんの事情聴取を聞いていたのですが、どうも言っていることがおかしいんです」


「どういうこと?」


 小練は眉を潜めた。


「実は今日、ヘレナと優斗はセックスをする約束をしていたそうなんです。二人ともそういう経験が初めてだったので、成り行きではなくしっかりと日取りを決めてやろうと考えていたみたいなんですけど……大丈夫ですか? なんか機嫌が悪そうですけど」


「そう? 別にそんなことはないわ」

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