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 開口一番に彼は言った。


「実はチャーリーについてお話ししなければならないことがあります」


 そこまで言って彼はモランから目を逸らした。その様子にモランは事の次第を悟る。


「私のことは気になさらず言ってください、アーロン先生。チャーリーはよくならないのでしょう?」


 アーロンはモランの顔を見ると口を開いた。


「はい、今のチャーリーの状態はかなり悪いです。彼の免疫機能はみるみる低下しています。持ってあと数日で彼の免疫機能は完全に停止し、絶命するでしょう」


 アーロンの言葉にモランは言葉を失った。あんなに元気そうでいるチャーリーがあと数日しか生きられないという。


「何か治療法はないのですか、アーロン先生。私でよければ力になります」


「残念ですがあなたも、そして私たちも何もすることはできません。なぜ、彼の免疫機能が落ちているのかわからないのです。生まれつきのものでもなけばウイルス感染によるものでもない。放射線の影響も考えましたがそれも違う。あらゆる検査を行いましたが、原因を突き止めることは出来ませんでした。今はその場しのぎで免疫機能を下げない薬を投与していますが、全く効果は見られません」


 モランは目に涙を浮かべた。最も尊敬していた恩師があと数日の命だと言うのに、自分は何もすることが出来ない。モランはチャーリーから人のために働けと教わった。今こそ彼の言葉を実行するべき時なのに、何も出来ない自分がとても悔しくて仕方がなかった。


「そのことをチャーリーは知っているのですか?」


「はい、三日前に伝えました。本人も最初は驚かれていましたが、受け入れたみたいです。すぐに準備を始めました」


 アーロンは懐から一通の封筒を取り出した。


「チャーリーは付き合いのある複数の友人に遺言を残しました。あなたもその一人に入っており、私からあなたにこれを渡すように言われました。ぜひあなたの目で確認してください」


 モランはアーロンから封筒を受け取ると、、中に入っていた便箋を読み始めた。


「モラン・ゴルディー君


 この手紙を読んでいるということは私の体のことは知っている、もしくは私はすでにこの世からいなくなっているだろう。


 不思議なものだ。私自身、こんなにも気分がいいというのに体はどんどん悪くなっていて、あと数日も持たないそうだ。

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