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南アフリカに帰国すると、モランは認証技術に特化したベンチャー企業「ウォーリアー」を設立する。社員みんなが世の中に立ち向かう一人の戦士であってほしいという彼の考えからつけられた。
ウォーリアーは瞬く間に成長し、BRICsでもトップクラスの会社に成長した。しかし、モランは会社の成長など考えず「人のために自分の力を使え」というチャーリーの言葉通りに仕事をした。
ある日の朝、モランはケープタウンにある総合病院を訪ねた。空はすっかり晴れ渡り、晩夏の暑さが激しかった。彼は病院に併設してある花屋で花束を一つ買うと、目的の病室まで行き、ノックして扉を開けた。
「やあ、先生。また来たよ」
八畳ほどある病室には髪もひげもすっかり白くなったチャーリーがベッドに横たわっていた。
「また君か。よく来たね」
彼はモランのことを見るとにっこり笑った。
「数多くの教え子たちが私のお見舞いに来るが、君ほど頻繁に来る子はいないよ」
「先生は私にとって人生を導いてくれた人です。これくらいのことは当然ですよ」
チャーリーはハッハッハとシワだらけの顔をさらにくしゃくしゃにして笑った。
「人生を導くだなんて、そんなたいそうなこと、私はしていないよ」
「それが出来るから先生はすごいんです。仕事上いろんな人と会いますけど、自分が正しいと思っていることを貫ける人なんてそういません」
モランの言葉に、チャーリーは微笑んで見せた。
「君は本当にいい人だな」
その言葉は朗らかさに満ち溢れていた。
ノック音が鳴り、扉が開いて一人の白衣を着た医師と数名の看護師が入ってきた。
「チャーリー、定期検査の時間です」
医師はモランに一礼するとベッドの隣にある機械をいじり始めた。
「モラン君、紹介するよ。私の担当医のアーロンだ。アーロン、こちらはモラン君、私の教え子だ」
アーロンはモランに顔を向けた。
「そうですか、あなたが……」
アーロンは言い淀むと、他の作業を看護師たちに任せ、モランを病室外に呼び出した。
「チャーリーからあなたのことはうかがっています、お会い出来てとてもうれしいです」
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