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 強烈な血の臭いと何かを激しくたたく音でランダは目を覚ました。辺りは薄暗く、加えて意識が曖昧なため、よく見えない。しかし次第に意識がはっきりしてきて、目の前の悲惨な光景を認識する事が出来るようになった。


 ライオネルとホセは眉間を銃で撃たれ、ベンのオフィスの応接間にある二つの大きなソファにそれぞれ仰向けで倒れていた。そして、その奥にあるベンのデスクには、全身から血を噴き出したベンがぐったりとオフィスチェアに寄りかかっていた。


 突如ランダの脳裏に数年前の出来事がよぎった。護衛対象と仲間の死。次第に彼女の呼吸は荒くなっていき過呼吸を起こし始めた。


 落ち着いて。まずは現状の把握に努めないと。


 そう思ったとき、自分の右手に拳銃が握りしめられていることに気づいた。そのことが彼女の過呼吸を余計ひどくさせた。


 ブッ


 無線が切れるときの音が聞こえてランダはびくっと体を震わした。


 なんでこの音がこんなところで……。


 音の発信源はベンのパソコンからだった。おそるおそる画面を見てみるとメールが一通届いていた。発信元はメキシコのカンクンからで、宛名はチャーリー・アダムと書かれていた。そんなことよりも、彼女の目に留まったのはそのメールの件名だった。


「親愛なるランダ・ミノス・カステヤ様」


 そう件名には書かれていた。


 どうしてベンのパソコンに私の名前が?


 ランダは慌ててメールを開いた。過呼吸はいつの間にか収まっていた。


「親愛なるランダ・ミノス・カステヤ様


 初めまして。私はいま君の隣で血を噴き出して死んでいる者と今夜食事をした者と言えば話が早いでしょう。いかがでしょう、私の芸術作品は? 対称性に優れた素晴らしい作品だと思うのですが、あなたの感想を聞けないことが至極残念です……」


 メールの書き手が言っている「作品」とはおそらくこのオフィスの惨状のことだろう。


 これを作品と呼ぶなんて……狂ってる。


 ランダは煮えたぎる思いをこらえながらメールの先を読んだ。


「……さて、本題に入りましょう。あなたは今私に猛烈な興味を示していることでしょう。私がどこの誰で、どのような手口を使ってこのようなことをしたのか。彼のパソコンを調べればわかるかもしれません。ただ、その暇があれば、ですが……」


 そこまで読み終わったとき扉の奥からフェイドの声が聞こえた。

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