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とても丁寧な文体だった。
竹内が言った通り、今日は最優先でする仕事もない。帰ったところでコンビニ弁当を食べて、缶ビールを飲んで寝るくらいしかするくらいだ。
では、隙間時間を埋めるために使わせてもらいますか。
小野世は耳の穴を軽くほじると原稿を手に取った。大体の編集者は最初に原稿全体に軽く目を通して読むのだが、小野世はそういうことはしない。小説を構成する文章や、文字一つ一つに至るまで、その作家の個性があると彼は考えている。そのため、彼は最初から丁寧に一文字ずつ読んでいくようにしているのだ。
小野世は原稿が綴じられていたダブルクリップを外し、ページをめくった。
次のページには「第一章」と題字が書かれており、その後に神崎守の個性がふんだんに使われたであろう物語が広がっていた。
第一章
小練英理巡査長はいつものようにパリ市内をパトカーでパトロールしていた。外は気持ちがいいくらい快晴で、普段からおしゃべり好きなマダムたちの口にもさらに磨きがかかっていた。天気予報では夕方にはこの快晴が一転、大雨に変わるそうだ。これも地球温暖化の影響だと朝のニュースで言っていた。
助手席では後輩のジョセフが女友達とのチャットを楽しんでいた。彼はいつもにやにやしていて寒気すら覚えるはずなのに、世のティーンエイジャーたちは呆気なく堕ちていく。
彼女は嫌気がさしつつもパトカーを走らせた。昼過ぎのパリの街には、ランチが終わったビジネスマンが続々と職場に戻っていく姿が目に映った。
「よっしっっっ!」
突然ジョセフが拳を握りしめて歓声を上げた。あらかた相手側の女の子と会う約束を取り付けたのだろう。
「また、女の子をゲットしたの?」
小練は答えがわかりきっている質問を会話の種として使う。
「はい。今夜、十九才の女子大生とディナーの約束をしました。彼女、チアリーディング部に入ってるそうなんです。かわいいこと間違いなし!」
はぁあ、チアリーディングの何が楽しいんだか、私には到底理解出来ないわ。
小練は隣で嬉しそうな顔をするジョセフを見て、やっぱり男ってバカだ、と思った。
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