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「その弁護士は殺される直前にある人物と会食していたの。その人物が手がかりになるんじゃないかと思って私は弁護士のパソコンを調べた。そしてその人物がメールを送信しているエリアがメキシコのカンクンだと判明したわけ」


「それで君はカンクンに向かったわけだ」


 ランダは「そう」と言いながら再びペットボトルの水を一口飲んだ。


「パスポートとかはどうやったんだ? 警察に追われているのなら自分のパスポートは使えないだろう?」


「友人にそういうことに精通している人がいるの。その人に頼んだの」


「ようは違法にパスポートを作ったってわけだな」


「仕方ないでしょ。そうでもないと私をはめた奴の正体をつかむことが出来ないのよ!」


 ランダは体勢を崩し語気を強めてそう言った。それが場を凍らせてしまったことに気づいたのか、すぐに「ごめんなさい」とつぶやき、元の姿勢に戻った。


「それで、そのあとは?」


「カンクンに着いた私は富裕層エリアから調べようと思ったの。そしたら……」


 そこまで言うと彼女は怯えるように縮こまった。呼吸を荒らげ、体を小刻みに揺らすその姿は捕食されそうな小動物のようだった。その様子を見て森須は大方を悟った。それと同時に胸が締め付けられるような感覚がした。


「もしかして、……さらわれたのか?」


 訊いていいものかどうか迷ったあげく森須は声を濁らせながら言った。ランダは小さく、でもはっきりと縦に首を振った。


「なんとなくわかったよ。嫌なこと思い出させてしまって悪かったな」


「いいの、私こそ話さなきゃって思っていたから」


 ランダは少し俯くとそう言った。


「もうすぐ日も暮れるし、どこか食べに行くか? 近くにおいしいタコス屋があるだ」


「行きたいけど、わたし……」


 彼女は少し寂しそうに言葉を濁した。おそらく払えるお金を持っていないのだろう。しかし彼女のお腹からは可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。そんな彼女の様子を見た森須はクスッと微笑んだ。


「いいよ、俺が全部おごってやるから」


 それを聞いた彼女の顔はぱあっと明るくなった。


「ほんとう? ありがとう!」

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