第50話 全否定の能力

 泰斗と連携していても、その怖さは絶大だった。

 黒城が目の前にいる。それだけで威圧感が半端ない。そして、心の底から根源的な恐怖が湧き上がってくる。つまりは、死への恐怖だ。

 半妖としての自覚が生まれた今でも、その恐怖に打ち勝つことが出来ない。

「まったく。そんな何でもありの能力を身につけているとはね。目覚める前に殺しておくべきだった」

 一方、黒城は泰斗と連携している姿を見て苦々しいと舌打ちする。しかし、次の瞬間にはにやっと笑った。

「が、今のお前を消せば同時にこの空間を維持する泰山府君も消すことが出来る。まさに一石二鳥だ」

「っつ」

 相変わらず考え方がえげつないと、友星は思わず息を呑む。

「ふん。出来るかな?」

 で、なぜか友星ではなくツクヨミが挑発する。

 おい、話をややこしくするつもりか。

「そうだな。お前の妖怪としての能力も見切れたし」

 そして何故か晴明まで挑発に乗ってくる。

 おおい、戦う本人を置き去りか。しかも能力が見切れたってどういうことだ。

「馬鹿か」

 そんな理解していない友星に向け、晴明は相も変わらず冷たい一言。

 ばっ、馬鹿って。

「友星君。どうやら彼の能力、理解できました」

「え?」

 しかし、泰斗がそう頭に直接語りかけてきて、どういうことだと目を剥く。というか泰斗、この合体状態でどう状況判断をしているんだろうか。

「友星君と合体することで、私にも人間的な思考が可能になるみたいです。ええ、不思議なことですが、多分、友星君がツクヨミの血を引いているからでしょうね。冥府の、黄泉の者との親和性が高いようで」

「へ、へえ」

 今、そういう難しい説明は要らないんですけどと、友星は戸惑う。

 あ、これ、身体だけでなく脳みそも共有状態なのか。

 それにしては、友星の脳みそは馬鹿なままなのだが。

「彼は空間を消す事が出来るんですよ。概念の否定と言っていいのかもしれません。つまり、総てを無にする能力。それが彼の妖怪としての能力です。友星君が誰とでも連携が可能なように、彼の能力も大きく拡大して解釈されて、使えるようになっているんです」

「ほへっ」

 そんな能力だったのかと、友星は驚いて黒城を見る。が、黒城は虫けらでも見るかのような目で自分を見ていた。

 ヤバい。

「狐者異の半妖だからその能力と同じだろうと思っていましたが、いやはや、まさかここまでの拡大解釈が可能だったとは。つまりは、全否定が彼の能力なんですよ」

「――」

 総てを否定する存在。それが黒城。

 友星はぞっとしてしまう。そしてそれこそ、根源的な恐怖の正体というわけか。

「ええ。妖怪を消したり火事を起こしていたのはフェイク。実際の彼の能力は恐怖を巻き起こすことではなく」

「空間を侵食して消すこと。あ、だからこの空間の端っこ」

「ええ。真っ黒だったんですよ」

「じゃあ」

 今、黒城の周囲の空間は消された後だということか。そして否定した空間の中に立っていられるのは黒城だけ。

「ようやく俺を理解したようだな。そうだ。俺は総ての存在を消すために生み出された。愚かな人間の、愚かな感情を受けて膨れ上がったマイナス。それが俺だ。総てを無に帰してやろう」

「――」

 めっちゃヤバいラスボスじゃん。

 友星はどうすんのと目を剥くことしか出来なかった。

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