第11話 豆腐一丁は嫌がらせ

 夕飯はどことなく予想できていたことだが、豆腐がいた。それも冷や奴としてでんっと、友星のお膳の真ん中に陣取っていた。

 これ、多分一丁丸々だよな。

 他のおかずを押しのけてまで膳の真ん中に陣取るこいつに、どうすればいいのかと、友星は固まるしかない。

 夕食を食べているのは泰斗の屋敷。しかも昼間連れ込まれた広間だ。そこに、莉空と並んで旅館で出てくるようなお膳でご飯を食べている。

 が、そのお膳の真ん中に豆腐。他の品々を押しのけて豆腐がででんっと居座っている。

「これ」

「ああ。豆腐小僧がくれたやつだな。めっちゃ美味いぞ」

「う、うん。味はいいんだけど、その、半分いる?」

「あー。仕方ねえな」

 泰斗がやや天然ボケなところがあることを知る莉空は、その豆腐の半分を受け持つことにしてやった。

 多分、豆腐小僧からあれこれと話を聞き、だったら友星に食べさせてやろうと思ったのだろうが、善意が伝わらない嫌がらせと化している。

 天狗だって豆腐一丁で出されたら嫌がらせだと思うのに、どうして解らないのか。友星も途中まで頑張ってみたが、半分が限界だったらしい。

「ごはん、どうですか?」

 そして間の悪いことに、仕事を片付けてやって来た泰斗が部屋に入って来た。おかげで莉空は根性で豆腐半分を飲み込む羽目になる。その豆腐一気飲みに感心しつつ、友星は何とか笑った。

「お、美味しいです」

「よかった。新しい仲間のためにって、妖怪たちが協力してご飯を作ってくれたんです。日本人に合う味はこれだって、張り切ってましてね。みんなの自慢の味なんですよ」

「へえ。だからちょっと」

 友星はそう言って再びお膳を見る。

 そう、豆腐に気を取られていたが、このお膳、かなり豪華だ。それも日本各地の名産品や郷土料理に彩られている。

 いうなれば、どこの地方のものか解らないほど雑多な状況。あれこれてんこ盛り。

 善意がやっぱり善意として伝わっていない。

「みんな、新しい仲間を迎え入れるために頑張ったんですよ。食事は総ての基本ですからね。そうそう。今日、ツクヨミ殿にも会ったんでしょ? 彼も自慢していましたしね。息子が会いに来てくれたんだって。彼、意外と子煩悩だったのかと驚かされました」

「へ、へえ」

 やばい。ここの妖怪たちに自分が半妖で、しかもツクヨミの息子だと知れ渡っている。より逃げられないし、期待されていることだろう。

 このままでは絶対に狐者異の半妖と戦わなければならない。友星は再び遠い目だ。

「これほどあっさりとみんなに受け入れてもらえて、私としてもほっとしています。黒城のせいで、半妖というのは怖いものだとみんなが思い込んでいたらどうしようと懸念していたんですが、要らぬ心配だったみたいですね」

「ほ、ほう」

 ひょっとしたら、半妖とばれてパニックが起こっていたかもしれないのか。パニックならまだしも、妖怪たちに袋叩きにされていたかもしれないのか。

 そんな危険があったかもしれないのに街中を歩かせたのか。

 この泰斗、見た目は優しそうなのに鬼だ。さすがは地獄の役人。基準がどこかずれている。

「これで一安心ですね。みんなが慕ってくれるということは、友星君の修行に皆さんが付き合ってくれるということ。どんな妖術でも見せてくれますよ。友星君の性質上、多分、どんな術でも使えるはずですから、どんどん覚えてくださいね。あ、これはツクヨミ殿から聞いたんですけど」

「――」

 どんどん大事になってんだろと、思わず莉空を睨む。が、莉空はガッツポーズを送ってくるのみ。やったなと喜んでいやがる。

 って、そうだ。こいつは誘拐してきた犯人でもあった。つい一日一緒にいたから友達みたいに思っていたが、油断ならない奴の一人だった。妖怪だった。

「それに仲間意識が出来るというのは大きいです。この街をみんなで守るんだという気負いが出来れば、その分、友星君をどんどん手伝ってくれるでしょうし。ひょっとしたら黒城に対抗できるだけの力を発揮するかもしれない。いわば連係プレーですね」

「ううん。それは有り難いかも。俺だけじゃあ何もできないのも事実だし。出来れば戦いたくないんですけど。でも、冒険のパーティーが手に入るということか」

「そうですね。スライムはいませんが」

「――」

 会話として通じたのはありがたいが、どうしてスライム。

 というか、スライムは仲間に入れないんですけど。非常に役に立たないやつなんですけど。

「ああ、そうか。連携プレーだな。おい、友星。俺との連携技も作ろうぜ。大風起こして黒城をビビらせよう」

「え、うん」

 でもって、意外にも連携して倒せるというのに乗ってきた莉空だ。そうか、今までは戦いたくても戦う方法がゼロだった。ところが、友星と協力すれば戦えると気付いたと。そういうことか。

 どうやら人間らしい発想というのを恐れているらしいが、どう考えても自然現象を操れる天狗やツクヨミの方が強いだろうに。まだまだ謎だ。

 が、すでに美少女天狗という強力なパーティーが手に入った。

「ええ。私も出来る限りお手伝いします。みんなで力を合わせて頑張りましょう」

 泰斗の抜けた声援に倒れそうになるが、ちょっとだけ肩の荷が軽くなったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る