第36話 まさかの漫画で特訓
「 え?」
「え、じゃない」
翌日。
イメージ力を鍛えるぞと晴明が現れたのはいいが、手に持っていたものに固まってしまう。
なぜ、それ。どうしてこれ。
そんな疑問しか浮かばない。
「だってこれ、漫画ですよ。イメージ力を鍛えるんですよね?」
「そうだ。頭で考えてもすぐに進歩はない。視覚的にイメージを手っ取り早く鍛えるにはこれが一番だろ。しかも主人公とか脇役とかが、勝手に技の解説までしてくれる。まさに一石二鳥。あとはどれが妖怪と組み合わせられるか。それさえ考えればいい」
「――」
凄い、天才陰陽師がとんでもない方法を思いついたぞ。
それが友星だけなく、莉空と泰斗も思ったことだった。
たしかに漫画を読めばとんでもない技を簡単に見る事が出来る。
いやはや、漫画家の皆さまの想像力に感服し、脱帽すべきなのか。いや、実際、自分では何一つ思いつかないのだから、敬うべきだろう。
日本のサブカル、恐るべし。
しかも晴明の言うとおり、技の発動やその性質に関して、大体誰かが説明している。
「妖怪を扱ったものも結構あるんですね」
でもって、泰斗は漫画に興味津々だった。
街中では妖怪たちも漫画を読んでいたし、なんかだすんごくお世話になっているぞ。妖怪ってもう漫画がなければ成り立たないんじゃないか。
「あれ? 泰斗は漫画を読まないんですか?」
だから、泰斗が興味津々というのはちょっとおかしいのではと、ツッコんでみる。みんなで読み合っているではないか。
「ええ。漫画よりも小説の方が面白くて、そっちばかりを追い掛けてしまいますね。それに、晴明を扱ったのって小説の方が多いんです。私は晴明とセットであることが多いので、どうしても晴明を基準に探してしまいますし」
「へえ」
そういうものなんだ、視線は再び晴明に向く。
その晴明は、ふんと鼻を鳴らして不快そうだ。
やっぱりスーパーヒーローとして扱われるのに抵抗があるんだろうか。自分で理系って言っちゃってたし。
「泰山府君の祭りは、あんなのじゃない」
「そ、そこですか」
しかし、どうやら小説での扱いにご立腹のようだ。でも、二人がセットで扱われるのは事実らしい。泰山府君の祭りがどういうものなのか、友星はさっぱり知らないけど。
「でもまあ、戦いに関しても、漫画から学べることはあるかも。正直、昔からケンカとか苦手で、どうやって防御すればいいのか。それに攻撃するタイミングはどうなのか。全く解ってないし」
友星はあまりに有名な週刊漫画雑誌を手に取って唸る。
丁度よく開いたページでは、主人公が空中戦を広げていた。刀を持って高く飛んで斬りかかる。見る分にはかっこいいが、これを自分がやるとなると先が思いやられる。
こんなに大活躍する姿、全く想像できない。
「刀かあ。かっこいいよな。友星、使えるようになれよ」
「ええっ」
「俺も使えるし」
横から莉空が刀はいいぞと勧めてくるが、友星は無理だろと首を横に振る。それに刀って、たしか凄く重いはずだ。あれを振り回すだけの腕力が友星には無い。体育の成績なんていつも三。柔道や剣道が入ると二だった。
「鍛えろよ。日本男児だろ。ムキムキになれ」
「いやいや。今時の日本男児は草食系だから。もやしだから」
ずびっと指差してずれた指摘をするので、そこはしっかり主張させてもらう。
それに、今時は細マッチョの方が格好良く見られるのだ。ガチムキはナルシストだという定評もある。友星としても、あまりムキムキボディにはなりたくなかった。
「ま、何でもいい。取り敢えず、気になった技、これならイメージしやすいという技があたら付箋を貼れ。いいな。サボるなよ。これ全部、明日の朝までにチェックしておけ」
そして晴明、それだけ指示して帰ってしまった。呆れてしまったらしい。
「いえいえ。ここまでやってくれただけでも破格の待遇ですよ。晴明は何かとツンデレですからねえ」
「泰斗さん。言葉の使い方が間違っていると思いますよ」
晴明相手にツンデレって、何だかなあという顔の友星に、泰斗は間違いないとにこにこしている。
さすが、付き合いが長いだけある。デレる瞬間を見たことがあるのか。いや、泰斗が勝手にそう受け取っているという可能性もある。
「それに、黒城の動向も気になりますからね」
「あ、そうか」
友星が修行している間も、あの黒城は待ってくれない。だから晴明はその間に別のことをしているというわけか。
ううん、でも、干渉できないと言っていたから、黒城の動きそのものを止められるわけじゃないだろう。やはり、早く友星が動けるようにならなきゃ駄目だ。
「しかし、凄い量だよ」
どうやって運び込んだんだと言いたくなるほど、今いる座敷が漫画本に埋もれていた。
これを明日の朝までにチェックしろだと。無茶を仰る。鬼か。
「技が出てくるところだけ追い掛ければいいんじゃないのか。内容なんてどうでもいいだろ。それより、明日の朝に終わっていない方が怖い。あの感じからして、晴明はマジで言ってるぜ」
「げっ。さすがに怒られるのは嫌だなあ」
内容も気になるけど仕方がない。友星は気合いを入れて付箋を持つと、うずたかく積まれた漫画を読み始めるのだった。
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