第17話 イメージと実像のギャップ
さすがに崇徳院だけでは解らない事が多いと、ツクヨミが呼び出された。
月の神としての能力を目覚めさせるには、やはり月の神本人が必要だろう。
「頼ってくれるとは嬉しいよ。息子の修行に付き合うのは親の役目だ」
で、ツクヨミは莉空によって運ばれてきたのだが、髪の毛を整えつつにっこりと爽やかに笑ってみせた。さすが、どんな場面でも色男であることは崩さない。
これが親父かあと、友星は遠い目をしてしまった。
「問題はツクヨミの力が多岐にわたるということだな。というより、神だから何でもありなわけだが、何からやらせればいい?」
どうやって修行させるかと崇徳院はすぐに相談。その間、友星はぼんやりとその会話を聞くことしか出来ない。ただ目の前にはイケメンたちがいる。それだけだ。
自分のことだけど、いや、自分のことだからこそ、全く以て何をすればいいのか解らないのだ。
何を受け入れればいいのか、頭がついて行っていない。だってまだ、自分の身体に不可思議な力が宿っているという実感さえない。
それなのに、周囲には妖怪だらけ。さらに命も狙われる。もう、たった二十年しか生きていないけど、人生観が揺らぎまくりだ。
「はあ。あの人が親父、かあ」
再び、友星は崇徳院と楽しそうに喋るツクヨミを見て溜め息だ。だって、イメージしていた父親像と大分かけ離れている。
それは当然で、祖父母が作り上げた父親像だからだ。彼らは娘をたぶらかしたとんでもない奴と認識している。おかげで女たらしの遊び人でろくでもなしと教えられていた。
が、実は神様であり妖怪で、口説くことが性質として備わっている奴だった。さらにイケメン、爽やか系。そのギャップは埋まらない。
しかも、友星の中では小さい頃から父親はヤクザ映画に出てくるような感じの人だったのだ。イメージがばっちり出来上がっているのだ。
こう、テロテロのシャツを着てセカンドバックを持って、さらに金色のネックレスをしているような。だって女たらしでろくでもなしだから。
「ううむ」
このツクヨミとは真逆のイメージを抱いて二十年間生きてきたというのに、それを実はで覆されてもなかなか受け入れられない。というか、真逆すぎて受け入れられない。
本当に父親なのか。実は人間でやっぱり怪しい金融業関係の人じゃないか。そんな悪あがきしか出来ないのだ。
「あっ、母さんは」
こっちにいるかもしれないという話だったが、まだ会っていないなと思い出す。すると、ツクヨミがにこりと笑ってこちらに近づいてきた。
「どうした? 優子に会いたいのか?」
「え、その」
母親を下の名前で呼ぶ男。父だと解っていても何だかもやもやする。
やはり、どれだけ言い訳を重ねてみても、本能的に父親だと認めてしまっている自分がいる。しかも、会いたいかどうかは微妙なところだ。
「もう少し早ければ会えたんだけどな。優子はもう冥界に行ってしまったよ」
「そ、そうなんですか」
「ああ。私はやっぱり人間だからってね。まあ、彼女にも彼女の生き方があり転生を阻む権利は俺にはない。十分に一緒にいれたことだしと、笑顔で送り出したのが二年前だったかな」
「へえ」
じゃあ、どれだけ願っても、もう母には会えないのか。
それに、友星はほっとしたような悲しいような。
結局、一緒に居た時間が短すぎて、どういう感情を向ければいいのか解らなかった。友星の中で母とは月と一緒。存在しているけど、それ以上でもそれ以下でもないものだった。
ただ、このツクヨミの方が一緒にいた時間が長いという事実が腹立つくらいで。
「さて。優子には会えないが、君は俺の息子として立派な妖怪になれるんだ。頑張るぞ」
「えっ、はい」
嫌だけどというのは、もう通用しないので渋々と頷いた。
敵に自分の存在を認知されている今、死なないためには妖怪としての能力を身につけるしかない。それは解っているんだけど、誰かこのモヤモヤを解消してくれないものか。どうにも納得出来ない。
「で、だ。手っ取り早く、俺と一緒に出かけるぞ」
「は?」
が、修行の内容が意外すぎて、友星は目を丸くしてしまう。
何がどうしてそうなった。さっきまで崇徳院と話し合って得た結論がそれっておかしくないか。せっかく道場にいるというのに。
「思うんだが、君はあまりに妖怪を知らないために、イメージ出来るものがないんだと思う。それが一つの原因。それともう一つ」
「も、もう一つ?」
「俺を親父だと認められていない気持ち、かな」
「っつ」
先ほどまで考えていたことを見抜かれ、ドキッとしてしまう。
が、ツクヨミは一切悪気がない。それどころか、これはチャンスとはしゃいでいる。
だからどうして、そういうテンションになるんだ。
解らん。
「というわけで、今日は一日俺と一緒に出かける。そして、色々なことを一緒にすることで親子の絆を作り上げることからだ。そうすれば友星も、俺を父親と認められる」
「ええっ!?」
この年で、親父とどんな思い出を作れと?
しかもこんなイケメンと一緒に街中を歩いて、どう楽しめと?
友星は仰け反ったものの、すでにウキウキ気分のツクヨミに引っ張られて、強制的に一緒に街へと繰り出すことになるのだった。
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