第42話 友星の概念の確立
ツクヨミから色々と話を聞くことで、友星の中で確実に何かが変わっていた。だから、泰斗の屋敷に戻った時、晴明は満足そうに頷いた。
「腹は括れたようだな」
「はい」
晴明の問い掛けに、友星は躊躇いなく頷く。
もう、自分が人間だと拘る必要はない。普通に両親に愛され、周囲に恵まれていたことを知った。だから、今の自分に自信を持つことが出来る。
黒城とは全く違う半妖。それが自分だ。
「俺は、半妖として生きていく覚悟ができました。ご指導よろしくお願いします」
「――解った」
一瞬、晴明は何か言いたそうに口を歪めたが、すぐに頷いた。
その様子に、晴明の優しさを見た気がする。
本当は、妖怪として生きることがいいとは思っていないのだろう。苦労することを知っている。でも、状況が許さない。だからこそ嗾け、そして支えてくれているのだ。
「妖怪として生きていくには概念が必要だ。それによって妖術も発動しやすくなるからな。お前の性質を確定しよう。今、解っているのは他の妖怪と連携が可能だということだ。つまり、それをお前の妖怪としての概念としてしまうのがいい」
「はい」
頷いたものの、妖怪になるのかと不安もあった。
腹は括れたが、まだまだ自信を付けるには時間が掛りそうだ。それは晴明も解っているので、頷くだけで済ませてくれる。
「他の妖怪と連携し技を発動する。どんな能力も取り込める。これがお前だ。ただし、それはお前自身には何の術も備わらないということだ。それはいいな」
「――」
自分には何の術もない。それに友星は大丈夫だろうかと考える。
いや、大丈夫だ。この街の妖怪たちはいつだって手伝ってくれる。ツクヨミや莉空は必ず傍にいてくれる。大丈夫だ。
「大丈夫です。俺は、他の妖怪たちがいてこその存在です」
「よく言った。今、お前は自らの性質を言霊に乗せた。これにより、お前の妖怪としての性質は確立しているはずだ」
晴明はそう言って柏手を打つ。高らかに音が響き、それが友星の概念を確立したことの報せとなったようだ。
「試してみよう。おい、泰斗。どこにいる?」
そこで晴明は莉空ではなく泰斗を呼ぶ。どうしてだと首を捻っていると
「今ので、ほぼ連携したことのない奴でも力を借りることが可能になったはずだからな。それを試してみよう」
と、晴明が説明してくれる。
なるほど、妖怪の性質や概念ってそんなに大きいのか。一つの縛りの中でしか生きられないが、その縛りが多くのことを可能にしてしまう。
「はい、ただいま」
で、ぱたぱたと駆けて来た泰斗は、何かやっていたのか着物の袖をたくし上げていた。たすきでちゃんと止められていて、今から大掃除でも始めるのかといった出で立ちである。
「何かやってたのか?」
その格好に晴明もタイミングが悪かったかと訊く。
しかし、何だか目が冷たい。友星は怒られるのかとヒヤヒヤした。
「すみません。墨を零してしまったので掃除していました」
「――先に掃除しろ」
「すみません」
意外と鈍臭い泰斗に、晴明は頭が痛くなっている。
それに、友星は思わず笑ってしまった。緊張状態が続いているが、まだ大丈夫なのだろう。泰斗にはのんびりと墨を零しても掃除する時間がある。
「そうだな。まあ、元々あの泰斗の性格がおっとりしているせいもあるだろうが」
「そうなんですね」
「ああ。ま、冥府の官吏なんて、気が長くないと無理ってことかな」
初めて聞く泰斗についてで、友星は興味津々だ。一体二人はどういう関係なのか。非常に気になる。
「冥府の官吏ってことは、閻魔大王と一緒に働いているってことですよね?」
「ああ。同一視されることもあるが、泰斗、つまり泰山府君はあくまで官吏だ。閻魔大王の家臣であるとされる。仕事の内容としては人々の裁判を管轄し記録する。さらに獄卒の長として地獄の管理を行う立場だな」
「へえ」
いわゆる中間管理職か。なるほど、大変そうだ。
地獄がどういう場所か今ひとつ解っていなくても、管理するという言葉が大変そうだ。そしてここでは妖怪たちの街をまとめている。
いや、この管理というのが泰斗の本質に当たるから、ここも管理しているのか。
「そうだ。そういう考え方にも慣れてきたようだな」
「ええ。そう考えないと駄目っていうルールがあるんですもんね」
「ああ。それが妖怪だ。どんな妖怪であっても概念があってこそ。泰斗は秩序を守るという性質があり、概念がある。だからこそ、ここで妖怪たちをまとめる立場に立てるというわけだな」
晴明は重々しく頷いた。
人間との絶対的違いである概念や本質に囚われる性質。それが、総ての基本なのだ。そして、今日から友星にも発動される。つまりは妖怪の助けなしに妖怪としての力は使えないということ。
「みんなの助けを借りて生きていく、か。めちゃくちゃ俺らしいかも」
「そうだな」
見事に半妖らしい概念を手に入れたものだ。そして自分の立場をよく見ている
。晴明は泰斗のことをあれこれと考える友星を、頼もしく見ていたのだった。
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