第47話 悪鬼の黒雲
「まさか」
こんなに早くに黒城が。
そんな単純な男だっけ。
そんな友星の感想なんてものともせず、雷雲はどんどん近づいてくる。
「拙いぞ。泰斗を呼んでくる」
「え?」
そしてツクヨミ、何かを察知したらしく、綿菓子二つを友星に押しつけて、泰斗のいる本部まで走って行く。
ええっと、だからこの綿菓子はどうしたらいいのでしょうか。二つも要らないって言ったのに。
「おいっ、祭りをがっつり楽しんでいる場合じゃねえぞ」
そこに莉空がやって来て、綿菓子を両手に持っている友星にそんな注意をしてくる。とんだとばっちりだ。
「俺のじゃねえ」
「え? そうなのか? って、どうでもいい。あの雲、マジでやばいらしいんだ。飛ぶぞ」
「ええっ」
しかも説明なしに飛ぶぞと言われる。友星は困惑し、取り敢えず邪魔な綿菓子は、通りがかった子狸たちに渡しておく。
子狸たちはビックリした顔をしていたが、素直に受け取ってくれた。そして友星は、莉空に抱えられてふわっと上空に舞い上がった。
「あれって何なんだ? ツクヨミもヤバいって感じだったけど」
「あれは悪鬼どもだ。地獄の奥底から、黒城の奴が召喚しやがったに違いないって、晴明が言っていた」
「げっ」
空から見ると、その雷雲が異様だということがよく解った。
近くで見ても真っ黒なのだ。雨雲や雷雲だと灰色だが、その雲はまさに黒。闇だった。それがもくもくと広がり、上空を覆い始めている。
「あの雲は」
「瘴気の塊みたいだな。臭い」
「臭い?」
天狗である莉空は鼻がいいようで、思い切り顔を顰めた。しかし、友星には特に変な臭いは感知できない。
「腐卵臭っていうんだっけ? そういう臭いがするんだよ」
莉空の説明で、温泉みたいな臭いかと理解する。
つまりは硫黄臭いということか。それは、人間にとっても普通に毒だ。臭いを嗅ごうと大きく息を吸いそうになったが、危ない危ないと小さく息を吸う。
「この辺で偵察だな」
「ああ。って、偵察?」
「そう。それと、俺との連携技」
「ああ」
必要に応じて莉空と一緒に雷を打て。それが晴明の命令なのかと理解した。
相変わらず妖怪たちは説明が下手だ。いや、説明するということを知らないのかもしれない。おかげで友星は推測するという技術を身につけた。
「あっ」
が、そんな余計な考察をしている場合ではなかった。
真っ黒な雲が近づくにつれ、無数の目が、その雲の中にあることに気付く。めちゃくちゃ気持ち悪い。
しかもそのどれもが血走っていて、恐ろしい視線を向けてくる。
「ありゃあ、悪鬼だけじゃねえな。とんでもない数を引っ張り出してきてるぞ」
その数に、普段は余裕綽々な莉空がごくっと唾を呑む。
これはマジでヤバいパターンだと、友星も青い顔をする。
すると、目の前でぼろぼろと雲の中から何かが下に落ちていく。
「ヤバい」
「えっ」
「友星。雷を」
「あ、はい」
しかし、集中しようとしたが、それは難しかった。
ぼろぼろと落ちたのは、悪鬼や餓鬼と呼ばれる小さな鬼の集団だった。それが下にいる妖怪たちにくっつくと、妖怪はみるみる小さくなる。
血が吹き上がる場合もあるし、ただ消滅してしまう場合もある。そして、鬼たちは次々に祭りに集まった妖怪たちを喰らっていく。
あちこちで悲鳴が上がり、まさに地獄絵図だった。
それに、友星は飲まれてしまう。恐怖で身体が動かない。
次々に妖怪が死んでいく様子に、完全に飲まれてしまった。
「馬鹿っ。集中しろ!」
が、そんな飲まれてしまった友星を一喝する声が響く。
どこからと見ると、ツクヨミと泰斗、それに晴明がそれぞれの方法で空を飛んでいた。ツクヨミは雲の上、泰斗はリアルに一人で飛び、晴明は魔法の絨毯のようなものを使っている。
「せこい」
「アホか。早く打て! お前が躊躇うだけ、妖怪が死ぬんだぞ!!」
「は、はい」
晴明のやつがいいなと思っていたら一喝されてしまった。友星は心を落ち着けると
「解!!」
莉空との連携技を発動させた。
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