第26話 雷を操ってみせろ!

「で、結局これって半妖の修行なのか? どう見ても陰陽師の修行じゃねえの?」

「アホか。陰陽師はこんな技は使わない。現世のゲームのやり過ぎだ。とはいえ、イメージしやすいのは事実だ。だから、それを見越してこの方法を採ったんだがな」

 じゃあアホと言うなよと、莉空はげんなりとしてしまう。いつ会っても、この大陰陽師と解り合える気がしない。

 翌日。

 修行方針が本当に決定し、晴明によって着々と鍛えられることになった友星は、川原で特訓の最中だった。

 とはいえ、それが端から見ると、どうしてもゲームで出てくるような陰陽師の技を習得しようとしているようにしか見えない。

 一体どんな修行なのか。

 それは妖怪たちを正しく敵に攻撃させるための連係プレーを生み出せというものだった。現在、かの大親分の崇徳院と特訓中だ。

 が、これが意外と、人間の部分を持つ崇徳院が協力しても難しいらしく苦戦中だ。雷を発動してもらって、それを友星が操って的に当てる。たったこれだけなのに、的に当たらない。雷はあらぬ方向に飛んでいき、たまたま上空を通りがかった麒麟を驚かせていた。

 広い河原でやっているというのに、何故か周囲に迷惑を掛けている。

「ゲームでというと、奴は魔導師的なキャラってことになるな」

「いや、チートキャラじゃないか? 何でもありだろ」

「晴明。お前、意外とそういうのに詳しいよな」

 さらっとチートとかいうスラングが出てきて、莉空は呆れてしまう。

 この御仁、昔から勉学を好むわけだが今でもそうなのか。何でも吸収しちゃうタイプだ。

 きっと日夜、インターネットやコンピュータについて勉強しているに違いない。

 ひょっとしたら人工知能とか開発していたりして。

 神社で暇を持て余し日夜パソコンの前。あり得そうで怖い。

「ま、ともかく、友星の場合は何でもありだと思う。今までが妖怪の影響ゼロだったのが良かったんだろうな。奴は概念というものに縛られていない。妖怪部分がゼロなんだ。だから新たな概念を与えることも出来る」

 晴明は莉空の呆れた視線をものともせず、そんな冷静な分析をしていた。

 友星は父を知らなかったために、というか自分が妖怪だったことを知らなかったために、自らの属性を決定する概念がない。

 それが今、あれこれと勝手に能力解釈が可能で何でも出来るという状態なのだ。

 それに気づいた晴明は、泰斗が他の妖怪と連携してやっていけるという発言をヒントに、この方法を思いついたというわけだ。ゲームや説話の陰陽師のように妖怪を使役させればいい。そう発想したのだ。

 一方、あの黒城はすでに狐者異としての概念に捕まり、他のことは出来ない。いや、もちろんあちらも半妖だから、ベースを狐者異としながらも何らかの術が使えるだろう。しかし、基本が決まってしまっている。

 相手に恐怖を与え、マイナスの感情を生み出させる。そこを逸脱した技は使えない。そこに大きな差があった。

 だから、あちらは見た目も妖怪としての部分が発露している。整いすぎた顔が、それを物語っている。

 だが、友星はどこを取っても一般的な男子大学生でしかない。見た目もそうだが、どこにも特異な部分はなかった。まだ、彼は妖怪としての基礎が何もないのだ。

「どあっ。危なっ」

「おお、悪い」

 冷静に分析するとそうなのだが、自分に雷が当たりそうになっている友星を見ると、大丈夫だろうかと不安になるのも事実

 。あれは、集中力が足りていないな。もしくは、崇徳院への理解が足りないために術が制御できないのか。

 どちらにしろ、友星は知識がなくて妖怪を理解できていない。これが問題になっているのも事実だった。

「おい、莉空。お前が行け。どうやら崇徳院様とだとバランスが悪い」

「え? ああ」

 まさかのご指名に驚く莉空だが、大親分の代わりが務まるならばと気合い十分だ。そこで友星と息を合わせ、雷で的を狙ってみる。

「友星。俺とやろうぜ」

「え、うん」

「では、俺は休憩だな」

 晴明のご指名で意気揚々と現れた莉空に、崇徳院は疲れたから丁度いいと笑顔で交代する。

「集中しろよ」

「え、うん」

 莉空に集中しろとアドバイスされるのは何だか変な気がしたが、ここまで全く当たっていないのだ。友星も気合いを入れ直す。

「はっ」

 莉空が気合い一発、雷を発動させる。それに合せ

「解!」

 晴明が考えた発動用の一言を発し、当たれと念じる。

 すると、どごんっと凄い音が鳴り響いた。

「お。当たった」

「凄い」

 見事雷で木っ端微塵になった的を見て、二人だけでなく崇徳院もあっぱれと喜ぶ。が、その威力に友星は目を丸くしてしまった。

「なるほどな」

 やはり何事もバランスらしい。

 崇徳院が持つ能力が膨大で、友星のイメージに入りきっていないのだ。結果、力を制御しきれずに的外れな方向に雷を飛ばしてしまっていた。

 一方、何日か一緒に過ごした莉空に関しては、友星も理解が及んでいるのだろう。

 目の前で崇徳院が雷を操っていることから、莉空も使えると学んだのだ。その結果、上手く術が発動したと考えるべきだろう。

「ふむ。高望みはしない方が良さそうだ」

 しかし、晴明は崇徳院と組めれば一発解決なのになと、思わず遠い目をするのだった。

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