最終話 大団円はびっくりの連続
一体どうなったんだと、全員が息を呑んでいた。
莉空がぶん投げた後、二人は消えたかに見えたが、泰斗がまず現れ、そして二人はその上から落下してきた。それを龍神がキャッチし河原に寝かしているのだが、二人は一向に目を覚まそうとしない。
「おいおい。祭りも台無しだな」
隠神刑部が茶化すように言うが、しんっとしてしまう。
それはそうだ。メインの二人がこの状態。しかも、戦っている最中に二人揃って戦闘不能なのだ。一体どうすればいいんだと困惑するしかない。
「今のうちに殺すか?」
でもって、そんな隠神刑部の横から不穏な声。見ると崇徳院だ。敵に回してはいけない人トップスリーに入るこの人は、容赦なしの判断をしようとしている。
「駄目ですよ。まだ、何がどうなっているのか、見極められません」
そんな崇徳院を止められるのはもちろん晴明だけで、殺すのは総てが終わってからだと言い放つ。
って、お前も殺す気なんかいとは、誰もツッコまないしツッコめない。
黒城は多くの仲間を殺し、そして多くのものを破壊した。このまま大人しく引っ込むと言われたって納得出来ない。ただ、どうしたらいいんだろうと困る原因は、仲間の友星が一緒に目覚めないままだからだ。
「友星」
さすがにこうなるとは思っていなかった莉空は、羽をぺたんと背中にくっつけてしょげている。泰斗の時は合体するし、今回は二人揃って気を失うし、まったく理解できないことの連続だが、責任は感じていた。
「おっ」
その中で何も言わずに見守っていたツクヨミが、見ろと声を上げた。なんと、二人から光が溢れている。そしてその光はどんどん大きくなりつつあった。
「駄目っ」
それに、大きな声が割って入ろうとした。小さな影が弾丸のようにその光に突っ込んでいく。
「縊鬼!?」
その姿に見覚えのあった泰斗は驚く。しかし、イツキは光に弾かれ、どんっと地面に尻餅をついた。
「おいっ、大丈夫か?」
反射的に抱き起こした莉空に、イツキは一瞬びっくりした顔をしたものの、そのまま泣き出してしまった。これには天狗もおろおろする。
「おおい、なんで泣くんだ? 痛いところでもあんのか?」
泣いている縊鬼なんて知らないし、こうなるとただの少女だ。非常に困る。莉空はよしよしと、頭を撫でてやるが逆効果だった。
「痛くないもん! 黒城様が、黒城様がいなくなっちゃう!!」
イツキは莉空に向けて、泣きながら腕を振り回して怒鳴ってくる。それに、攻撃される莉空はおろおろとし、他の妖怪たちはどういうことだと視線があの光に戻った。
その光は、どんどんと大きくなり、それは天に届くほどになっていた。そして天と繋がったかと思うと、空がばっと光で溢れる。
「鎮魂の光ですね」
それに、泰斗はこれは鎮めるためのものだと気付く。
ここで死んだ多くのものに対する鎮魂だ。そして、この事件に巻き込まれて死んだ友星の祖父に向けても。
「じゃあ」
黒城も、と莉空はイツキと空の光を交互に見る。
何がどうなったか解らないが、黒城もまた死んだのか。そしてこれは友星が起こしていると。
「光を司っているのは友星だ。しかし」
黒城が死んだ気配はないけどなと、晴明は顎を擦る。さすがの大陰陽師も、こんな展開は初めてで理解しきれない。というか、訳が解らない。まさに前代未聞だ。
「あっ」
その光の筋から、一人の男が舞い降りてくるのが見える。それは友星のはずだが、誰もが知っている友星ではなかった。その姿に、先ほどまで泣いていたイツキも目を見開く。
「えっと、ただいま」
地面に降り立ち、ぺこっと頭を下げる姿は友星で間違いない。でも、顔はどことなく黒城に似た美形になっているし、服装はスーツ姿だ。
どういうことだと、全員がその次の言葉を待つ。
「その、俺、黒城と完全に融合しちゃいました」
友星はてへぺろと笑ってみる。
が、全員があまりの展開に唖然呆然。一体どういうことと、目を丸くする。
しかし、一人だけ違った。イツキだ。莉空の手から逃れると、友星にゆっくりと近づく。
「黒城様」
そして遠慮がちにそう呼びかけた。
「そうだ。でも、もう俺一人では動けない。いや、動けぬようにしたのだ。悪い。だが、こいつを頼れ」
「――」
友星でありながら黒城でもあるからか。そんな言葉がすんなりと勝手に出た。それにイツキは再び涙を零したものの
「ご命令のままに。このイツキ、どこまでも黒城様に従います」
そう頭を垂れた。
唯一の友、唯一の仲間が救われたことに黒城がほっとしたのが、友星にも伝わってくる。
「ということは」
「全部解決か!」
「ええ」
友星が頷くと、集まっていた妖怪たちがどっと沸いた。そして祭りの続きだと散っていく。すぐにお囃子が始まり、あちこちで妖怪たちが踊り始めた。
その変わり身の早さに、友星だけでなく晴明も呆れてしまった。もう少し何かあるだろうと思うが、相手が妖怪だから仕方ない。街の責任者である泰斗はおろおろとしている。
「友星」
「父さん。どう? この顔なら合格?」
「ははっ。そうだな」
心配して近づいたツクヨミに対しておどける友星に、何もかも大丈夫だなと晴明は笑った。それは泰斗も同じで、よかったと胸をなで下ろしている。ツクヨミも生意気になったもんだと、友星の頭を思い切り撫で回した。
「まったくよう。黒城を取り込むなんて」
莉空は心配させやがってと友星の背中を叩いた。すると、イツキがその莉空のすねを蹴飛ばす。
「いてっ」
「黒城様に何するんだ」
「なんだと? 本体は友星だ。お前はこれから友星様って呼ばなきゃいけねえんだぞ」
「ちょ、二人とも」
いきなりケンカを始める二人に、友星はどうすべきと自分の中にいる黒城に問う。すると、面白いから放置しておけなんて言ってきて、友星はますます困る。
でも、友星にも黒城にも、こんなに多くの仲間が出来たのだ。それは間違いない事実。だから、どれだけ騒がしかろうと、これでいいかと笑ってしまう。
「これからも、よろしくお願いします」
「それはこちらの言葉です。友星君は、この街を救ってくれた、そして黒城まで救ってしまった、頼もしい存在ですから」
もう二度現世に戻れないけど、そんな友星を泰斗は笑顔で迎えてくれた。ここが居場所だと、黒城にも示してくれた。それに胸がじんわりと熱くなる。
「ほら、祭りに行くぞ」
「私も行く」
そして友星は莉空とイツキに引っ張られ、祭りの踊りの輪の中に入っていったのだった。
半妖の俺が妖怪たちを救う!?って、突然言われても・・・ 渋川宙 @sora-sibukawa
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