半妖の俺が妖怪たちを救う!?って、突然言われても・・・

渋川宙

第1話 誘拐犯は空から現れる

 あの世と呼ばれるもの、常世と呼ばれるもの、それはすぐ傍にある。

 誰も意識していないが、この世、現世と呼ばれる場所に寄り添うように、それは常に人間たちの傍らにあるのだ。

 それを、あの日まで柏木友星かしわぎゆうせいは知ることなく生きていた。

 いや、自分は普通の人間だと、平々凡々、いやむしろそれ以下の人間だと思いながら生きていた。

 見た目は一般男子より劣るし。

 背は165センチで普通だし。

 体力ないし。

 自分にはそんな妙なモノと関わり合っている暇なんてない。

 人一倍努力して普通なのだ。そう思っていた。



「発見! 桂男かつらおとこ――いや、月読命つくよみのみことの息子はあいつだな。それにしても父君は超絶美形だというのに、めっちゃ普通だな」

 てくてくと大学への通学路としている道を歩く友星の頭上を飛びながら、にやにやと笑う存在。そんなものに、一般人だと思い込んでいた友星はもちろん気づかない。ちなみに上空の男の評価の通り、友星の見た目は本人が卑下するほど酷くはなく、一般男子のそれでしかない。どこにでもいる、普通の身なりに身長に顔をしている。

「ま、いいか。気配は間違いねえ。それに、説明するなんて面倒だ。どれっ」




 そして、その瞬間は唐突に訪れた。

「うわっ」

「ちょっと御免よ。説明すると長くなるんだ」

「ええっ」

 誘拐とは背後からやって来るものだ。しかし、その次は車に押し込められるのが常。が、友星の身体はふわりと持ち上がり、空高くに連れ去られる。

「!?」

 あっという間に、さっきまで歩いていた歩道が遠くなり、家々が小さくなっていく。そう、なぜか遙か彼方上空に連れ去られてしまっている。

「え、ええっ!?」

 人間が空を飛べるはずはない。そんな常識を無視し、空高く舞い上がってしまった友星は混乱するしかない。

 しかも、自分を掴んでいるのはどう見たって人間の少女の手で、それだけでも自分を持ち上げていることが驚異だ。

 さらに言えば、モーター音やエンジン音がしないからグライダーで滑空してきたのかと思っても、再び高く浮上することは無理なので、というか町中で飛び回れるものではないので、即座にその可能性は否定されるという状況。

 つまり、不可能かつ不可解な状況なのだ。

「一体、な、なにっ!? ええっ、マジで飛んでるの、俺?」

「暴れるなよ。さすがの俺でも落とすかもしれねえから」

 混乱してじたばたする友星を、攫って上空に連れ去った少女は快活な声でそんな注意をしてくる。

 それに、友星はぴたっと動きを止めた。女の子の一人称が俺なのも気になるが、こんなところから落とされたら即死だ。ぺちゃんこだ。

「ええっ!!?」

 結果、大人しくするしかない友星は、情けない声だけを残し、どこかへと連れ去られてしまったのだった。



「――」

「――」

「――」

 で、連れ去られた先、何やら古風なバカでかい屋敷にて、友星はにこっと微笑む綺麗な顔の若旦那風の人と、先ほど自分を誘拐した、背中に大きな黒い翼のある茶髪ロン毛の、いかにも原宿にいそうな少女と対面することになる。

 全く以て理解不能。

 が、頭がぐるぐるしていて、何をどう聞けばいいのかという状況。

 取り敢えず、何一つ理解できないし理解したくない。

「すみません。莉空りくうが無理やり連れてきてしまったようで。きちんと説明できる場を設けてからと私は言ったのですが。あ、私はここで総代をしております。皆さんからは泰斗と呼ばれる者。どうぞお見知りおきを」

 混乱している友星を哀れに思ったのか、沈黙を破るように若旦那――泰斗たいとと名乗った男性は丁寧に頭を下げる。正座をしていた姿勢から、それはもう深々と頭を下げた。

「い、いえ。え、あの、その、ええっ」

 で、まだまだ混乱中の友星は、取り敢えず年上の人に頭を下げられてわたわた。

 若旦那風の泰斗はどう見ても三十代だ。そんな人に丁寧に謝られる覚えはない。いや、誘拐を指示したのがこの人ならば謝ってもらって当然なのだが、だから何がどうしてという総ての説明が抜けている。

「なぜ、俺」

「えっと、順にお話ししますね」

「お、お願いします」

 そこにてこてこと小さな人、和服姿の小僧というべきか、が、お茶と和菓子を運んで来て友星の前に置く。ここは寺か。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

 にやっと笑って見たその小僧の顔は、大きな目が一つだった。その下にある口からにゅるっと長い舌が覗いている。

 ひっと、友星は小さく悲鳴を上げてしまう。

「ああ、すみません。ここには妖怪しかいないもので」

「よ、妖怪?」

 そんなもの、いるはずない。普段の友星ならば笑い飛ばしているだろう。

 しかし、現実に目の前に一つ目小僧がいる。本物かと触ったら、くすぐったそうに笑った。本物だ。

「ええ。あなたはお気づきではないようですが、あなたも、妖怪ですよ」

「え?」

「半分ですけど」

 その瞬間、友星は自分が普通ではないのだと、半分は妖怪なのだと、いきなり知らされることになるのだった。

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