第40話 ツクヨミと真剣に話してみよう
「ほう。俺について詳しく知りたい、か」
ぜえぜえと息を切らしてやって来た友星に驚いたツクヨミだったが、事情を話すとあっさり納得してくれた。
そして、まあ、座り給えと中に通され、冷たいお茶と茶菓子を用意してくれた。
そのもてなしの慣れ方が桂男なんだろうなと、出されたお茶を一気飲みしてから思う。
「今更って思うかもしれないですけど」
「いやいや。友星は色々と忙しいからな。俺とのことは後回しになっても仕方ない」
ツクヨミはこうやってやって来てくれたんだしと、にこにこと笑う。
本当にこの人はよく笑っているなと、そんなことにも気付く友星だ。
どうしてずっと笑顔なんだろう。その前向きな性格は見習いたい。
「ツクヨミは桂男であって、さらに月読命っていう神様なんですよね」
「そうそう。本来は神様ね。神代の頃、俺は天照大神と対を成す神様だった。天照大神は説明するまでもなく太陽だからさ。月である俺と対なのは解るだろ?」
「え、ええ」
そうか。天照大神と同じなんだと、友星は思わず背筋が伸びる。
ヤバい。このツクヨミしか知らないから、本来はとんでもない神様だという実感がなかった。
本来ならば、国民全員が知っていて当然のレベルだった人、なのかもしれない。
「まあ、そうだね。同時期に生み出されたからねえ。ちなみに神代から月というのは死を意味していて、俺は黄泉の国の神様でもあったんだよね。死者の国の王という位置づけかな。そういう関係で、冥府の役人でもある泰山府君の泰斗とも仲がいい」
「へえ」
何度か同じような説明を聞いているはずなのに、全く理解していなかったと今更気づいた。そして、途中で晴明の解りやすい解説があったおかげで、ようやくすっきり理解できたなと思う。
本当に晴明様々だ。友星の立場をよく理解できているという点でも頼りになる。そんな風に真剣に考えていたら、ツクヨミが嬉しそうににこっと笑った。
「ふふっ。何だかね。友星が現れてから、俺の中の感覚も変わりつつあるんだよね。たぶん、桂男としてより、この神様の部分を知ってほしいからかな。息子にはいいところを見せたいっていうか」
「そ、そうなんですか」
「そうなんだよ。前までは桂男としての概念が大きくて、こうやって月読命に関してちゃんと説明できなかったんだ。何だか忘れてしまっていたというかね。でも、君が近くにいることで、眠っていた概念が呼び戻されたのかもしれない」
「へえ。でもそういえば、雰囲気が変わったかも」
最初に会った時はチャラいイメージしかなかったのに、今はしっかりした大人という印象を受ける。それはつまり、月読命としての部分が出てきたからというわけか。
「まあ、時代の変化もあるかもしれないけどね。今は桂男の方がマイナーで、意外と月読命の名前が知られるようになったからかもしれない。その時々で変化するから、急に変わると疲れるんだよね。これが妖怪の大変なところだ」
「ああ。概念云々で」
「そうそう。特に俺は概念が二つに跨がっているだろ? だから変化がとても大きい。どちらが有名かというので決まっちゃうから。昔は、それこそ晴明がいた時代なんかは、桂男なんて概念がなくて月読命としてしか認識されていなかったからさ。その時の感覚になると、今とは全く違うものになっちゃうね。
知ってる? 俺の神像なんてのもあるんだよ。京都の松尾大社にさ。そのくらい有名だったんだけど、いつしかマイナーになってねえ。まあ、日本書紀とかにもちらっとしか出てないからかなあ」
「晴明さんから聞きました」
松尾大社にあったという説明を受けたというと、さすがは陰陽師だよねと笑顔になる。ツクヨミや泰斗のこの晴明への絶大な信頼感。そのポジションに自分もなれるんだろうか。非常に不安だ。
「晴明さんって、やっぱり凄い人なんですよね」
「そうだね。昔から真面目で努力家だし、馬鹿にされるのは嫌いだからやり返すタイプだし。知ってるか? あいつって当時の陰陽師としてはあり得ないくらいに出世してるんだぞ。
まあ、勉強するのは妖怪だって同じだよ。ここの妖怪たちだって自分の出てくる漫画やアニメ、それにゲームを必死にやってるだろ? あれは自分を理解するためにもやってるのさ」
「な、なるほど」
じゃあ、友星が漫画を読んでて半妖というプライドがいるのではと思ったのは、あながち間違いではなかったわけだ。
ここにいる妖怪たちと同じ手段。そういう点も、あの晴明は考慮したのかもしれない。ますます頭が上がらない相手になった。
「あ、晴明さんの話はよくって」
「そうだった。俺のことだったね。じゃあ、妖怪としての概念がいつから出来たか。それは江戸時代になって、月に美男子が住む、そして女性を誘惑するって話が出てくるようになったせいだな。この辺の詳しい事情は解らないんだが、月イコール男の神様ってのはなんとなくでも知っていたはずだから、そこから生まれたんだろうね。で、その月の神様である俺に桂男という要素が付与されるようになる」
「へえ」
「あの当時、俺も面白がって色んな女性を口説いたのも悪いんだけど」
「――」
真面目な話が一気に自業自得になって、友星は脱力する。
おそらく、新しい概念が付与されて面白かったのだろう。この人、調子に乗るタイプっぽいし。
「だから、友星も半妖ってプライドを確立するのはいい発想だと思うよ。自分で行動することによって、概念は補強されていくからね。ついでに神様の息子であるプライドもくっつければ最強だよな」
「はい」
ツクヨミに笑顔で後押しされ、また自分の中で何かが変わったのを感じ取っていた。
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