第43話 破壊の現状
「レイ様。敵に動きが」
「ふん。あの成り損ないの半妖が、ついに妖怪の性質を手に入れたか」
「はい」
イツキの報告に、黒城は皮肉げに笑った。
目の前に現れた友星を見た時、即座に殺してやろうと思ったほど、奴は憎々しい。
のうのうと普通に人間として生き、今まで妖怪なんて無縁だったというのが、その腑抜けた顔からよく解った。
それが生意気にも妖怪として覚醒しただと。
小賢しいにもほどがある。
「いかがいたしましょう?」
「簡単だ。殺すまで」
「はい」
「案ずるな。俺が自ら殺す。あれが同じ半妖だと、許せるはずがない。あんな奴の存在、認めてなるものか!」
「――」
黒城の憎悪を、純粋な妖怪であるイツキは理解することが出来ない。しかし、本気で怒り、憎しんでいることは理解できる。それはイツキにとっても苦しいほどの陰の気を含んでいた。
「それより、町の破壊はどれほど進んだ?」
青い顔をするイツキを見て、気持ちが高ぶり過ぎたと気づいた。
気持ちを落ち着けるように本堂の上座に座ると、黒城は報告しろと促す。
「はい。外辺部の破壊はほぼ完了しつつあります。境界が消え去るのも時間の問題です」
「よし。次の段階に入るか」
「はい」
「奴らが気づくことはないと思うが、急いだ方がいいだろう。神の領域にいながら介入してくる晴明の動きも気になるしな」
次の攻撃を泰斗が読めるはずがない。彼らには複雑な思考が出来ないからだ。
妖怪のみであるというのは、なんと愚かなことだろう。
そして、半妖とはなんと素晴らしい能力を持っていることだろう。
虐げてきた奴ら。そいつらにこの半妖の能力をもって復讐する。それだけが黒城を支える。
だからこそ、友星のような人間として無事に生きてきたような存在は許せない。
「邪魔な妖怪ともども、滅してくれる。下衆どもを滅するという目的を果たすためにも、まずはここを、平和ボケした連中を消し去ってやる。恐怖をもたらさない妖怪は邪魔なだけだ」
復讐に燃える黒城は、その瞳に暗い炎を宿していた。
「まただ」
「これは酷い」
一週間後。
他の妖怪とも容易に連携が可能となった友星は、泰斗の仕事を手伝うべく莉空と晴明と共に現場へと出ていた。
亜空間の境目が酷いというので、その調査に乗り出したのだ。すると、徹底的に破壊され、真っ黒にされた光景に驚かされる。それは豆腐小僧を助けた時よりも暴力的な光景で、唖然としてしまった。
荒涼としているなんてものではない。先が見えない暗闇になっている。
「どういうわけか、黒城が破壊するとこうなってしまうんです。おそらく、私が作り上げた次元ごと持って行かれているんでしょうね」
泰斗は困ったものだと、秀麗な顔を顰めている。黒い空間は手出し出来ない状態のようだ。
「次元ごと。ってことはこの真っ黒な先は泰斗の能力が及ばないってことですか?」
それってめちゃくちゃヤバいんじゃと、友星は慌てる。
修理不可能ということは、ここはずっと真っ黒なままだ。
「そうだ。修理するにはまずここに溜まる穢れを祓い、新たに空間を作り直さなければならないだろう。奴はおそらく、周囲を破壊し影響力を削ごうとしているんだ。そして、それだけではなく、境界を曖昧にし、陰の気が入り込みやすくしようとしている」
そう答えたのは晴明だ。
途中からなんとなく手伝うことになった晴明だが、結局、この人が何もかもやっている気がする。
もちろん手出しは出来ないのだが、口は出しまくっている。明確に行動しなければ、他の神も文句を言い難いのだとか。
それは非常に心強いことだった。友星はまだまだ頼りないし、泰斗だと黒城の思考力に対抗できない。あれこれ制約があっても人間である晴明は、友星にとっても泰斗にとっても力強い存在だ。ブレーンと呼べる。こうやって助言してくれるだけでも大助かりだ。
「陰の気。ってことは、黒城が動きやすくなるってことですよね?」
「ああ、そうだ。そして、街にいる連中も影響される。妖怪たちの中には陰の気の方が馴染む連中がいることは否定できない。元は排除されていた連中だからな。特に鬼なんかは、本来の特徴が際立つようになるかもしれない。それこそ、黒城の手下として動き出してしまうかもしれないぞ」
晴明の懸念に、友星は普通に喫茶店を営んでいた鬼女たちを思い出した。
あの時は鬼という単語にびくびくしていたわけだが、ひょっとしたら、今度は本当にびくびくすることになるかもしれない。
しかし、彼女たちはここで喫茶店をすることを望んでいるし、今を楽しんでいるのだ。それを奪われるというのは許せない。
「早く対策を打たないと」
「そうだな。ともかく、泰斗は黒くなってしまった場所の切り離しと、その手前の出来る限り補強だ。そのくらいは可能だろう。友星と莉空は俺と一緒に街の妖怪たちの状態のチェックに行くぞ。陰の気に飲まれそうになっている奴がいたら、応急措置をする必要がある」
「はい」
「解りました」
自らが手出し出来ないながら、しっかりと手伝ってくれる。こうして晴明の指示の下、てきぱきと動き始めた。
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