第6話 敵はどんな奴?
「その狐者異って妖怪はどんなんなんだよ?」
「ああ、そうか。そこから説明しなきゃなんねえんだな。面倒臭え」
「――」
ずずっと蕎麦を啜る可愛い系少女というのも変だというのに、言葉遣いの悪さが非常に気になる。
が、それ以上に勝手に連れてきておいて説明が面倒とか、言われる筋合いはない。
本当に、泰斗もそうだったが、どうしてこう説明できない妖怪ばかりなのか。
ただいま、二人は昼食のために蕎麦屋の一角にいた。周囲はもちろん妖怪だらけ、店員だって妖怪ばかり。その状況下での食事だ。
友星は思わずきょろきょろとしてしまうが、向こうも一見するとただの人間がいるので興味津々だった。おかげでよく視線が合う。そうなると、友星の方が視線を外すしかなかった。
で、目の前の莉空に集中しようとするのだが、こんな感じなので腹が立つ。非常に、色々と腹が立つばかりだ。
「狐者異ってのは、人間が使う怖いの語源になったとまで言われる、気味の悪い妖怪のことだよ。あれこれと解釈があって正体不明なところは多いが、人間の悪意や穢れから生まれたと考えていい」
「悪意や穢れ」
すでにヤバそうな雰囲気満載だなと、友星はセットで出て来たおいなりさんを食べて思う。
それがまあ、意外と美味しかった。お袋の味的な、どこか懐かしい味が口の中に広がる。
「美味い」
「そりゃあそうだ。ここは狐たちがやってる蕎麦屋だからな。おいなりさんへの拘りは恐ろしいものを感じるね」
「あ、やっぱ狐っていなり寿司が好きなんだね。って、恐ろしいのか。天狗なのに?」
「天狗ってのは人間に近いんだよ。あそこまで変な拘りはない。一つのものに拘っているやつってのは、どんな存在でも怖いもんだよ」
「へえ」
いやはや、どんどん知らないことが出てくるので、一つ質問したら色々と訊き返してしまうことになる。
でも、莉空の言い分は理解できた。要するにオタクに感じる怖さみたいなもんだろう。微に入り細を穿つように何でも知っているというのは、凄さを通り越して気持ち悪さを感じるものである。
が、今はそんなおいなりさんオタクの狐や人間に近いと主張する天狗よりも狐者異だ。
味方であるらしい莉空のことは、おいおい知っていくのでも大丈夫。
狐は蕎麦屋さんなので問題なし。
しかし、敵のことはさっさと知っておかないと。いざって時に逃げられない。
「で、そんなマイナスばっかりの奴が敵の親」
「そうだな。というより、勝手に人間の女が呼び寄せちまったところがあるけどな。何があったかは知らねえが、相当負の感情や穢れを溜め込んでいたんだろうな。だからこそ、狐者異はそいつに取り憑き、子どもという形で恨みが具現化してしまったわけだ」
「――そんなに恨むことがあったってわけか」
すでに嫌な気分になる話だなと、友星は遠い目をしてしまう。
世の中を恨むような何かがあったのだろうが、平々凡々な友星には想像も出来なかった。そしてそんな負の感情から生まれた人間。一体どうやって成長したのだろう。
というか、真っ当な人生を歩んでいないのだろうなと思う。そして、その人も両親には育てられていないんだろうな。
とすると、誰が世話をしてくれたのだろう。友星には優しい祖父母がいたが、そいつにはいたのだろうか。
「あ、そういえばその半妖って名前はあるのか?」
そう考えるとよく復讐するまでに育ったなと気付いて訊く。すると、あるに決まってんだろと莉空は酷い。
「じゃあ、名前は?」
「クロキだ。黒い城と書いて黒城。下の名前は知らん」
「ああ、そう」
名字だけ聞かされてもねという気分だが、一応名前のある人間なのだ。
自分が今まで人間だったと疑わなかったわけだから、半妖って人間と変わらないに違いない。つまり、見た目から半妖だと解る部分はないはず。
「ああ。そうだな。普通の男だ」
「男なんだ」
今更だが、そこは女だったら良かったというのは、単純に女王様のような想像をしていたせいだ。
なんだ、やっぱり男か。
ま、例え話にイエスキリストが出た時点で、薄々は気付いていた。というか、破壊しようってあたりに男臭さしか感じない。
「付け加えるなら無駄にイケメンで、あっちの方が桂男の息子っぽい」
「さらに最悪の情報をありがとう」
くそっ、そいつまでイケメンなのか。
平々凡々な顔をしている友星は、さらに周囲にイケメンが増えたとげんなりしてしまう。妖怪って美男美女が基本なのか。
この莉空だって無駄に可愛い系美少女だし、あの泰斗も和風なイケメンだ。
なぜ、なぜ自分だけ普通なんだ。父親である神様を取り敢えず恨むしかないか。
「ま、思考形態も普通の人間だと思うね。妖怪だったら考えつかねえようなことばかりするもん。人間っぽいんだ。だからこそ、俺たちでは対策出来ないし、怖いし、おっかないし、戦えない」
「おい。理解しようとしろよ。って、だから丸投げなのか?」
ずうずうと蕎麦を啜りながら放たれた言葉に、だからどこかに逃げ道はないのかと腹が立つ一方なのだった。
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