第8話 ノリの軽い父親
「おおっ、よく来たな。我が息子よ」
「ぎゃああっ」
いきなり、いきなり超絶イケメン様に抱きつかれた友星は、この世の終わりのような悲鳴を上げていた。
場所はもちろん、無理やり莉空によって連れてこられた桂男の屋敷だ。この屋敷も、最初に連れてこられた泰斗の屋敷と同じくらいに大きい。
そんな屋敷の庭先にて、友星は熱烈にイケメンに抱き締められているのである。
「感動の親子の再会だな。どうだ?」
「ど、どうだじゃない。ええっ、この人なのか?」
何とか桂男の腕から逃れた友星はマジでと、目の前のモデルかと思う男性をまじまじと見つめた。
背は高く、一八〇センチはあるだろうか。すらっとした体型、整った目鼻立ち。服装は平安時代の装束として有名な狩衣だが、それ以外はもう、どこをどう見てもモデルでしかないイケメンだ。
しかも見た目年齢は三十くらい。親父と呼べない。見た目年齢だけだとお兄ちゃんだ。いや、しかし平凡な自分とは違いすぎて、兄弟でも無理がある。
「そう。俺が桂男にして月読命だ。みんなからはツクヨミと呼ばれている。よろしくな」
「軽っ。そして恐ろしく軽っ」
片手を上げてきらんと微笑む姿は、都会にいる成功者のそれと変わらない。
おかげで友星は目眩がしていた。
ええっ、自分と百八十度以上違うんですけど。そんな気分にしかならない。本当に自分はこの人の血を引いているのか。ちょっと信じられない。
友星には一ミリたりともこのノリは存在しないというのに。
「ツクヨミさんは努力を怠らない人だからな。現代に置いて行かれないようにちゃんとやってんだぜ。努力家なんだ」
「いや。現代にって、ノリの問題? そこに努力って必要か?」
どうしてこの仕上がりになったと、友星は全力で莉空に向けてツッコむことしか出来ない。
というか、これを父親として受け入れろと。
こんな軽くてモデルな人を、これからは父親として受け入れなければならないのか。
無理だ。無理すぎる。
「他にも勉強しているよ。顔とかも今風だろ。それにノリは軽い方がいいのだろ? ほら、今時の子って格式張ったことを嫌うし。あんまり堅苦しいと女の子にモテないしね」
「いや、まあ、それは人それぞれだと。って、今でもナンパしてるんですか?」
「たまにね。それが俺の習性だから」
「――」
さらっと言われ、自分に腹違いの兄弟がいるかもしれないと怖くなる。が、それはないとすぐに訂正が入った。
「習性というだけで好きじゃないんだ。声を掛けずにはいられないってだけさ。その先はお茶して終わりってのが毎回だね。女の子とのお喋りは楽しいから、これだけは止められない。だから、心から愛したのは君の母でもある優子ただ一人。俺もあそこまで恋に落ちるとは思わなかったね。まさに運命の出会いだ」
「そ、そうですか」
自分の父親だとまだ受け入れられていないのに、さらっと母の名前が出てくると妙に冷や汗が出る。
どうしてだろう。この人が本当に自分の父親だと、その事実を突きつけられるからか。それとも母親を知らない男に取られた気分になるからか。
解らないが、非常にもやもやとする。
「それで、無事にここにやって来たのはどうしてだ? 見たところ、死んだわけではなさそうだが、俺に会いに来てくれたのか?」
「え? 訊いていないんですか?」
感動の再会が終わって冷静になったツクヨミの一言に、どういうことだと莉空を睨んでしまう。
が、莉空も何を言ってるんだという顔をしている。明らかに話が噛み合っていない。
「ツクヨミの旦那、しっかりしてください。あの黒城と戦うために息子さんをお借りしますよって、ちゃんと言いました。泰斗さんと散々話し合いましたよね?」
「あ、ああ。そうだった。あの狐者異との半妖でトラブル起こしている子だよね。何だ、まだ終わってないのか?」
「そんなすぐに片付くわけないでしょ。旦那が意識してか無意識か知りませんが、その坊ちゃんに呪いを掛けたせいで、まだ何一つ進んでいません」
「ああ。そうだったね。さすがに成長に悪影響があっては駄目だと、俺の血の能力は封じたんだった。ううん、そうか、そうだったなあ。懐かしい」
「――」
ど、どこまでも軽いなと、友星は疲れてくる。
ここに来て、まだ話の通じる人(妖怪)と出会えていないせいだ。誰もまともに説明できない。
興味のままに生きるだけで、他者に理解させるというのが苦手すぎる。しかも、まさか親父まで同じノリだったなんて。
「それで、解いてほしいんですけど」
莉空と友星は期待を込めてツクヨミを見た。しかし、当のツクヨミはきょとんとする。
「え? 解けてないのか? そこは普通、成長したら切れるはずなんだけど。そんな一生涯妖怪であることを気付かないなんて、寂しいだろ? 俺の息子なのに。だから軽くしか掛けてないよ」
「――」
でもって、何だか嫌な予感のする言葉がツクヨミから出てくるのだった。
ああもう、まったく解決しないじゃん。
友星はノリの軽すぎるツクヨミに疲れ、その場にべたっと座り込んでしまうのだった。
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