第3話 敵も半妖だが特殊系

「あの、意味が解らないんですけど」

 敵を倒せって、まずここがどこで、泰山府君とは何なのか。その説明をしてもらいたいところなのだが。

 そう友星が申告すると、ああそうでしたねと泰斗は頷く。意外と適当な人だ。

「私、泰山府君というのは、いわば閻魔大王えんまだいおうの補佐です」

「――閻魔大王」

 それは聞いたことがあるけど、えっと友星は泰斗をガン見してしまう。

 この若旦那風の人が地獄と関係あるのか。全然信じられない。どう見ても天国にいそうな優男だ。

「とはいえ、私の仕事は他にも色々とあるので、まあ、それは横に置いておいて」

「横に置いちゃうんだ」

 自分の説明、ちゃんとした方が良くないですか。友星は呆れてしまう。

 どうにもこの人、間が独特だ。だから説明がとっ散らかる。本当に閻魔大王の補佐なのか。それさえ疑問になるほど独特だ。

「関係があるのは現状だけですから。今、私はここで妖怪たちを束ねる仕事をしています。現代社会は妖怪にとって非常に棲み難い世界。ということで、妖怪たちをあれこれ世話しているんです。適度に彼らの生きる世界を提供する。この街もその一つです。ここは私が作り出した空間。そこに、現代社会に適応できなくなった妖怪たちちを住まわせているんです」

「へえ」

 それはそうだよなと、友星は思わず莉空を見てしまう。

 空からいきなり誘拐犯が現れては、現代社会は大混乱だ。天狗に攫われたなんて警察に通報しても、頭のおかしい奴の悪戯電話として、真面目に取り扱ってもらえない。

 ましてや一つ目小僧なんて、特殊メイクだと思われるだろう。

「しかし、そういう緩やかであるとはいえ支配を嫌うものはいます。妖怪という性質上、人間に害をなすことで存在する奴もいますし」

「ま、まさか」

 その害をなす奴のボスを倒せってことか。

 よく漫画とか小説であるパターンだよなと友星が指摘すると、まさにそのとおりと頷かれてしまった。

 うわあ、ラスボスがいるんだ。

「む、無理だよ」

「実は、そいつを倒すには半妖でなければ無理なんです」

「は?」

 半妖でないと無理。

 まだまだ解らないことだらけだが、どうやら自分は半妖であるらしいので、条件をクリアしているのは自分だけってことか。

 そう訊くと、二人は揃って力強く頷いた。

「というのも、敵の総大将を気取ってる奴もまた、半妖なんだ」

「え?」

 まさかの敵も半妖。マジでか。

 莉空は苦々しそうに言うので、これは信じるしかなさそうだが。

 しかし、半妖。半分妖怪で半分人間の奴が総大将。そしてそいつを倒すのもまた半妖。不可思議な話だ。

「それもかなり特殊なパターンの半妖なんです。我々が知る限り、彼一人だけでしょう。もちろん、友星君もなかなか特殊なんですけど、友星君にはちゃんとご両親がいますから」

「ええっと」

 解らない上に特殊だとか何だとか、マジで理解できない。助けてもらいたい。

 誰か一から順序立てて説明できる妖怪はいないのか。

「すみません。私たちも初めてのパターンなので、どう説明するのが正しいのか解らず」

「そうなんですか?」

「ええ。今までにも私たちに反発する人はいました。しかし、こう正面切ってケンカを売られたのは初めてで。それも、狐者異が絡んでいるとなるとどうも」

「怖い?」

「いいえ。狐者異こわいです。ただひたすら人間に嫌悪感と恐怖心を与える妖怪だと思っていただければ」

「ひ、ひたすら嫌悪感と恐怖心」

 そんなのが敵なんて絶対に相手にしたくない。というか、友星はまだ何一つ返事はしていないのだが。

 今の話を聞いてしまうと、自然と腰が引けた。

「そいつ本体が敵じゃねえ。そいつと人間の思念から生まれた奴が敵だ。だから、狐者異そのものじゃない」

「え?」

 まだまだ解らないことだらけだ。

 友星はどういうことだと莉空を見る。人間の思念って、妖怪と人間の間に生まれた子どもだから半妖なんだろうと思うのだが。

「かなり特殊な発生の仕方なんだよ、そいつ。なんだ、イエスキリストみたいな。父親なしに生まれた、みたいな」

「でも、生まれたのは真逆なんだよね。世界を救世するんじゃなく、破壊しようとしていると」

「ええ。狐者異と人間の女性が抱く恨みや負の感情が子どもを作り出したんです。いわば思惑の塊。しかし、ちゃんと人間としての実体を伴っています。そして立派に大人になった彼は、妖怪と、そして人類すべてを絶望の底に叩き落そうと画策している」

「――」

 やべえ。

 妖怪世界だけではなく、人間にまで関わることを押し付けられようとしている。

 友星はその説明に顔を引き攣らせるのだった。

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