第7話 見た目年齢は役に立たない
「でもさ、そんな奴がちゃんと育っているわけ? 大人になれたってのは解るよ。でも、色々とありそうだよな。そもそもそいつって何歳?」
蕎麦を食べ終え、また江戸を思わせる町中を歩きながら、友星は莉空へと質問する。
ともかく現状を理解しないと。そうしないと何も判断できない。
幸い、徐々に妖怪には慣れてきた。奇妙な見た目の生物が歩いている。そのくらいの認識に落ち着いていた。
「育ってるわけだよ。ちらっと見た感じは普通だったしな、ま、どんな生物でも赤子じゃない限りは、なんとか出来るんじゃねえの?」
「それはどうだろう。人間の場合は色々と難しいと思うけど。で、何歳?」
すぐに話題が逸れるなあと思いつつ、友星は質問を元に戻した。
妖怪たちは興味のある部分しか答えてくれないらしい。それも学習してしまった。だから、聞きたい内容はこうやって何度も質問する必要がある。
「二十歳くらいじゃねえかな。それこそ、お前と同い年くらい。でも、向こうは半妖っていう自覚があるからな。見た目の年齢は意味ないかもしれねえけど」
「え?」
また聞き捨てならないことが出て来たぞと、友星は身構える。見た目年齢が実年齢と違うということか。そんなことあっていいのか。
「それはそうじゃん。俺だってたぶん、人間基準だと二十代だよな」
「いや、十代っぽいよ」
どちらかというと、莉空はまだまだ少女に見える。泰斗は三十代というところか。しかし、今の流れからして、実際はもっと上ということか。
「そうそう。俺はもう七〇〇歳くらいかな」
「へえ、七〇〇。え?」
納得し掛って、あり得ない数字に目を剥く友星だ。
人間だったら何回生まれ変わっているんだというロングスパン。妖怪だから可能なのか。そういうことか。
「泰斗は一五〇〇くらいいってんのかな。多分、本人ももう解らなくなってると思うけど」
「――」
マジかよと、友星は莉空をガン見してしまう。
どう見たって十代の可愛い系女子だ。何度も思うが、原宿や渋谷にいても何の問題もない。それが七〇〇歳。
七百年前といえば一四〇〇年代頃ってことになり、室町時代真っ最中だ。一体どうなってるのかという問いは、相手が妖怪だから意味がないのだろうけど。
ということはこの言葉遣いの悪い少女は、足利義満とか織田信長とか徳川家康とか、その他諸々の歴史上の人物を見たことがあるってことか。
なんか解らないけどすげえ。
「お前も今後修行すれば、その姿をキープできるようになるぜ。なんせ、桂男の血が色濃く入ってんだからな。妖怪としての能力が目覚めれば、ばっちり可能だぜ」
悩む友星に、莉空はそう言ってばしばしと背中を叩いてくれる。
いや、この姿をキープできて嬉しいような悲しいような。出来ればもう少し渋くなってからがいいような。って、そういう問題ではない。
「あのさ。敵も気になるんだけど、俺の親父ってどんな人だよ。ここに住んでるのか?」
「ああ。住んでるよ。会いに行くか?」
あっさり会いに行くかと聞かれ、友星は困ってしまった。
会いたいような会いたくないような。そんな微妙な気分にしかならない。だって、産まれてすぐ父は母の元を去ったのだ。その母も、すぐに病を得て友星が五歳の時に他界している。正直、両親に関する記憶なんてない。
それなのに、会って何を話せばいいのか。というより、妖怪で神様だという謎の存在に会って、どう対処しろというのか。
しかも妖怪としての封じられた能力を解放してくださいって頼めってか。こっちは何とかお断りしたいのに。
「そうそう。お前の母ちゃんもこっちにいるんじゃないのか? 多分、桂男が魂を保護しただろうし」
「――」
ま、ますます会いに行き難いじゃないか。
こっちの世界で新たに子どもとか出来ていて、幸せ満載の家庭なんて築いていたらどうしてくれるのか。あまりのことにその懸念を吐き出すと、莉空に笑われた。
「アホか。それなら半妖という自覚すらなかったお前を連れてくるわけないだろ? こっちで調達すればいい。まあ、俺も直接桂男に会ってないけど、子どもはお前しかいないよ。あの人、意外にピュアな心の持ち主だしな」
「そ、そうなのか」
ピュアって。
その表現に何だか違和感があるものの、どうやら知らないうちに弟か妹が出来ていたということはないらしい。
「泰斗がちゃんと調べているから確かだよ。泰斗は性質が似ていた過去があるから、桂男とは昔から仲がいい。今回も半妖が必要だということが解った段階で、ではうちの息子が適任だって言い出したくらいだし」
「そ、そうなんだ」
それが、自分の運命を狂わせた原因だなと思いつつ、友星はそっと溜め息を吐いた。
まさかの親父公認だった。
まったく、なにを勝手にオッケー出してくれているんだ。こっちはずっと平々凡々な人間だと思って生きてきたのに。
「そうだ。お前に掛けられた術を解いてもらわないと。おい、予定変更。桂男の屋敷に行くぜ」
「え、ええっ」
こうして、再び友星は莉空に抱きかかえられて、有無を言わせず空高く舞い上がることになるのだった。
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