第45話 祭りの準備だ!

「マジで祭り」

「ああ、かなり本格的」

 三日後。

 修行でお世話になっている河原にて、友星と莉空はぽかんとしながら呟いていた。

 その目の前には大きな櫓、そして数々の提灯。周囲を見渡せば、あちこちで屋台の準備も進んでいる。

「気の流れが変わったな。やはり、これが正解だったらしい」

 でもって、櫓の傍から晴明がやって来た。そして仕事は終わったとばかりに伸びをしている。

 結局この人、口だけではなく手も出してないか。

「あの、晴明さん」

「何だ?」

「どうして」

「見れば解るだろ? 妖怪たちは祭りに気を取られてウキウキワクワク。陰の気なんて吹っ飛んでいる」

「ええ、まあ、そうなんですけど」

 答えとしてほしいのはそれじゃなくてと、友星はげんなりした。

 絶対、絶対にわざと答えをはぐらかしている。

 この作戦、実は挑発になりませんか。

 その懸念を棚上げしている。

「馬鹿か。目的はそれに決まっているだろ。これだけ陽の気が溢れ、自分の作戦に影響が出るとなれば、あの黒城は出て来ざるを得ないだろう。そこを友星、お前が叩け」

「ええっ」

 しかもいきなり無茶な命令を下してくれる。

 友星は仰け反るが、横にいた莉空のテンションが上がった。ついに決戦か。その高揚で血が滾っているかのようだ。

「黒城を徹底的にやっつける。それが祭りのメインだな」

「ああ。しかも街にいる妖怪の大半はこの祭りに参加する。つまり、連携相手をわざわざ探す必要がないうえに、次々と発動できる。まさにいいこと尽くめだ」

「おおっ」

 莉空は晴明の説明に目を輝かせているが、友星はなんだってと目をひん剥いた。

 まさかの事態だ。友星の懸念を上回る事態だ。そんな覚悟、友星は全くしていなかった。

 ただ、祭りなんてやってたら黒城は怒るだろうな。そんなことしか考えていなかったのに。

「いいか。お前はもう妖怪として概念を確立させている。ならば、どれだけ連携技を打っても問題はない。倒れることはないから心配するな」

「そ、それは」

「それに、黒城の考えていることは俺でも読み切れん。どうにも妖怪としての性質に引っ張られすぎているようだからな。ひょっとしたら、自らの思考も狐者異の性質のせいで歪められているのかもしれないし。こうなったら、無理やりにでも引っ張り出すしかないと思っていたんだよ。丁度いい」

「――」

 ブレーンが、我らのブレーンが役割をぶん投げてる。

 考えが読み切れないから出てきてもらうなんて。作戦なしじゃないか。

 戦として、それって間違っていないか。

「いやあ、晴明。面白いことを考えたな」

 唖然として友星がフリーズしていると、ツクヨミがにこにことやって来た。手にはすでにイカ焼きがある。

「それ」

「ああ、これ。屋台の手伝いに来たんだけど、試食してくれって梅さんにもらってね」

「は、はあ」

 梅さんって、あのお歯黒べったりのお嬢さんか。相変わらず、桂男としての性質が大活躍しているらしい。月読命の性質が大きくなっていると言っていたが、まだまだそんなことはなさそうだ。

「どうだ? どいつもこいつも浮かれているだろ?」

 そして晴明、いい実例が来たとばかりにツクヨミを指差して言う。

 いや、そうですけど。

 でも、自分の親父が真っ先に楽しんでいるってのは複雑なんですけど。

 友星はああもうと頭を掻き毟った。

 どうして、どうして常に締まらないのだろう。みんなが妖怪だからか。妖怪は複雑に考えずに動くからか。

 しかし、この祭りの発案者は天才級の頭脳を持つ大陰陽師のはずなんですけど。

「おいっ、祭りの太鼓はこれでいいか?」

 そんな友星を余所に、隠神刑部が百インチテレビほどの大きさがある太鼓を他の狸たちに運ばせてきている。それを櫓の上に設置するつもりらしい。さすがにどの狸も今日は酔っ払っていなかった。

「ああ、助かる。莉空、運んでやれ」

「へいへい」

 しかたねえなと、莉空はそんな馬鹿でかい太鼓をさらっと担いでひとっ飛びだ。その腕力にビックリしてしまう。どう見ても可愛い系女子な莉空だが、奴は天狗だった。そして、なんだかんだで奴も祭りを楽しむ気満々だ。

「どうして」

 しかし、強制的に決戦の場が用意されつつある友星は、その場で頭を抱えるしかないのだった。

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