49.水晶鉱石《素材》

 数ある魔法鉱石の中でも特に魔力を秘めた、最高級の鉱石。

 それが水晶鉱石だ。

 魔術に携わる者なら、喉から手が出るほど欲してしまう、珍しく貴重な素材である。


 純度の高いマナの結晶であるこの鉱石は、文字通り水晶のように生えている。

 ただし、この鉱石が生まれる場所については、特定の環境が定まっていない。

 様々な時代や土地、マナの流れの隙間に奇跡的に生まれるのが、この鉱石なのだ。


 しかも、水晶鉱石は環境や使用者によって色を変える。本来は無色透明だが、生えている際にはその土地の影響を受け、採取・加工を経てだれかの手に渡った際は、持ち主の魂に近い色になる。


 多大な魔力を秘めた一級品の素材だが、見つけることが難しいので、一欠片でも大変高価で貴重な鉱石だ。

 逆に身に着ける者によって色が変化してしまう事から、魔術師や死霊術師などの魔力を使用する者以外――例え王族貴族でも、一般人が身に付けるアクセサリーにはほぼ使われない。


 見つけること自体が難しいこの水晶鉱石だが、本当にどこにでも生まれる可能性がある。

 雪深き北の山々の洞窟の中だったり、大昔に海にしずんだ街の遺跡の中だったり、牧歌的な風景の中に流れる小川の底だったり、なんでもない森の中できのこの隣に生えていたりする。


 一攫千金を夢見てこの水晶鉱石を求める者はそこそこいる。ほんの一欠片でも見付けて売り払えば、それなりの生活ができるからだ。

 しかし水晶鉱石を見付けるなんて、砂漠に落ちた金の粒を見付けるようなもの。

 水晶鉱石が生まれる場所さえ見当が付かないものだから、そのまま旅人と化してしまう事も多い。

 そのうちに気に入った街や村に住み着いたり、愛する人ができたり、他にやりたいことができたりして、目的が変わってしまうことも珍しくない。


 そうやって夢を諦めて平凡な生を送っていると、人生は不思議なもので、ふとした瞬間にたまたま見つけてしまったりするのだ。

 そういう時、かつての夢追い人は苦笑しながら採取して、欲を出さない範囲で売り払い、身の丈にあった分の金銭を得て再び平凡な生活に戻っていく。


 あまりに珍しく価値が高いもの――それこそ、求める者によっては殺してでも欲してしまう一級品の魔法鉱石だから、価値のわからない凡人のふりをして、ちょっとだけ小金を貰うだけに留めるのだ。


 欲にまみれた者の手によって、今の平凡な幸せを壊されないように。

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とある幻想おとぎ図鑑 秘鷺 @himesagi

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