23.貝殻送り《文化》
西の果ての海岸から小一時間ほど小舟を漕いだ所に、一つの島––水上都市がある。
かつて水上要塞として利用された歴史のなごりで、島をぐるりと石の壁で囲み、外から見えるのは木々と背の高い建築物、そして中心にそびえる城のみだ。
中は迷路のような街並で、その隙間を水路が走り回っている。都市の外でも中でも、船での移動は最も一般的なものだ。
この水上都市の向こう側の海は、冥界に繋がっていると言われている。
年に三日間のみ、周囲の海面が下がり、陸地と水上都市を繋ぐ石畳の道と、向こう側の海––冥界に繋がっていると思われる石畳の道が現れる。
この干潮となる三日間は、この都市最大のお祭りだ。
陸地と水上都市を繋ぐ道の両側は、商売の船でぎっしりと埋まる。
特産の真珠や珊瑚を使用した装飾品、羽衣のような布、捕れたての貝や魚を焼く良い匂いを漂わせる屋台…………それはもう、三日で回りきれそうにないほどの船上屋台が、客寄せの声を飛ばしながら海面をひしめき合うのだ。
都市内部でのオススメは、船頭に頼んで都市を案内してもらうことだ。
意外と内部の市街地は静かである。ゆったりとした時間、白い壁にかかる花々。船頭が櫂を押し込み、透明な海水が太陽光を浴びてきらきらと反射する。ざぷん、と静かな水音を重ねていくうちに、遠くに聞こえていた喧騒がだんだん近づいてくる。
大きな建物の日陰を抜けると、そこは都市の中心、城の前の水上広場だ。
都市内で最大の広さを誇るこの場所では、船上屋台の他、周囲を囲む建物の二階、三階からも物売りが顔を出している。
長い棒に籠を取り付け、お代と商品を交換するのだ。
花びらと紙吹雪舞うこの広場の活気は、一度感じてみると良いだろう。
だが、これだけの盛況を見せる中、海側の道に屋台は無く、静寂が守られている。
こちら側の石畳の道は、干潮にも関わらず、海の中へと続いている。
この道に立ち入ることができるのは、三日目の夕方から夜にかけてのみだ。
このお祭りの最大の目的は、故人を偲び、別れを告げるためのものである。彼らの新たな門出を祝し、都市全体を上げて騒ぎ倒すのだ。
この行事は、貝殻送りと呼ばれている。
参加者は三日目の夕方までに、水上都市の付近で貝殻を見つけなければならない。
それは、陸地の砂浜でも良いし、都市内部でも無料で配っている。
気に入った貝殻ならどんな大きさ、形でも良いのだが、条件として「貝殻に耳を当てた時に、故人の声が聞こえたもの」でなければならない。
普通の貝殻では、潮騒の音が聞こえるだけだ。だが、上記の貝殻は、その向こうから大切な人の声が聞こえるのだと言う。
見つけた貝殻を、大きな葉と串でできた小舟に乗せ、貝殻の内側を上にして蝋燭を立てる。この蝋燭に火を灯すと、それは澄んだ青色に光る。
小舟や蝋燭も、都市側が用意し、参加者に無償で提供してくれる。
最後に、火を灯した貝殻を小舟ごと海に流す。この時、不思議と全て沖に進み、都市の方へ戻ってくるものはいないのだという。
昼間の喧騒と打って変わって、この時間はとても優しく、静かな時間だ。大切な人との最後の別れをしに来た人々は、静かに涙を流し、沖へ流れ、水平を埋める青い光たちをいつまでも眺め、そして背を向けて帰っていく。
貝殻送りに参加するため、わざわざ東の果てから足を運ぶものもいる。
そしてまた、たくさんの人々が貝殻送りをする。
青い光が途切れる年は、ない。
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新作執筆のため、投稿頻度が2~3日に一話程度のペースになります。
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