32.光華祭り《文化》

 光華こうか祭りとは、東の国の年越し前夜から開催される、年に一度のお祭りだ。

 光魔術による砲弾を夜空に打ち上げ、華のように舞い咲く光景を楽しみながら新年を迎える。

 この光魔術の砲弾は光華こうかと呼ばれており、芸術分野と言われる光魔術の中でも、雛型となる魔術である。

 世界中の光魔術専門の魔術師たちが、この日のために一年をかけて準備した砲弾を打ち上げる。

 年越しの時期になると、世界各地から、この景色を見にくる者がたくさん集まり、この国一番の盛り上がるを見せるのだ。


 正式名称は、光彩魔術砲弾葬礼大祭こうさいまじゅつほうだんそうれいたいさいという。

 元々、この光華こうかはその年に亡くなった人を、冥界に送り出すための祭りだ。

 光華を空に撒き散らすことで、魂が迷わないように世界を照らし、新年を迎える祝いと共に、彼らの新たな門出を祝うのが目的である。


 光華こうかは製作が難しく、魔術師の技量が問われる分野だ。

 芸術家としても活動する者が多い光の魔術師たちは、多くがパトロンの力を借りて、この日のために準備する。

 光の大魔術師が管理する魔術組織も、この祭りに協賛している。

 同時に、魔術たちの技術の競い合いも兼ねている。


 火の魔術から派生した光の魔術は、幻術や催眠などができるが、実用性という点においては、火の魔術で十分まかなえる内容のため、光の魔術は役に立たない分野として扱われていた。

 芸術に長けるとはいえ、魔術界ではずっと日陰者扱いされていた。


 そんな折、光の大魔術師が、長い伝統を誇る光華こうか祭りに着目した。

 元々、光魔術の地位向上を目指していた光の大魔術師は、この国の統治者に掛け合った。

 今でこそ華やかだが、当時は小さな光の玉を打ち上げるだけの、大しておもしろみのない祭りだったそうだ。むしろ、一晩中砲弾の音が響き渡り、葬送が目的とはいえ、国民にとってはかなり迷惑だったらしい。


 統治者との交渉を終えた光の大魔術師は、組織内外、身分を問わず光の魔術師を集め、光華こうか作りに取り組んだ。

 何度も何度も作っては失敗しての繰り返しだったが、芸術肌の彼らは嬉々として研究を進めた。


 そして、彼らの渾身の作品を打ち上げることとなった初の光華こうか祭りは大きな反響を生んだ。

 一大行事となったことで人が集まり、経済が回る。国起こしとしても、光の魔術師たちの技術の見直し、地位向上という面からも、大成功をおさめたのだ。


 もうすぐ光華こうか祭りの季節となる。

 今年はどんな光華こうかが空に咲くのか、楽しみにしてるといい。|

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