31.英雄の宿業《知識》

 過去、現在、未来。

 世界に数多に存在する英雄たちも、いつかは永遠の眠りにつく。

 彼らが死んだ後の遺体は、厳重に保管されている。

 何故なら、死霊術師たちに使役しえきされる事から守らねばならないからだ。


 死後に強い想いを残し、冥界に行かず現世にとどまり続けた幽霊が、生命あるものに危害を加えるようななった存在が死霊である。

 彼らを操るのが死霊術師だが、他に死体や生死そのものをも操る事ができる。

 死霊も、死霊術師も、世界の流れに反する存在であり、流れを乱す行為を繰り返す。

 マナや魔力そのものを害し、土地を荒廃させる。その特性から、魔力を多く持つ魔術師や、魔族と呼ばれる人外たちにとても有効な攻撃手段を持っている。


 彼らは、少なからず裏社会に通じている。

 もちろん、死霊術師の全てが悪というわけではない。

 中には、暴れまわる死霊を捕らえて人々を救い、冥界に導く手助けをする者もいる。

 だが、強大な魔術師や魔族に対して強い有利性を持つことから、世界征服を企む者も存在するのだ。


 そんな悪の死霊術師は、より強い死霊を求める。

 そして辿り着いたのが、“かつての英雄を操ること”だ。


 それを防ぐため、墓を暴かれないようにするため、名を馳せた者たちの遺体は厳重に保管される。

 一度、遺体を焼いて灰にしたら、その灰を奪われ、素材として使用された挙句に、強力な屍兵を何体も製造された事があった。

 かつて英雄が守ったはずの街が、その屍兵の手で滅ぼされた事もある。

 だから、英雄の名誉のため、生き抜いた想いと誇りのため、彼らの遺体は厳重に保管されるのだ。


 生命あるものは、死した後に冥界に行き、そこで魂の休息をとった後、現世へと転生する。

 転生すれば、ほとんどの者は前世の記憶を有していない。

 だが、前世で英雄だった者の遺体が死霊術師の手に落ちたとき、その身体と転生した魂は呼び合う運命にある。


 その時、宿業しゅくごうが動き出すのだ。

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