45.花散る砂時計《魔法道具》

 世界には、大魔術師と呼ばれる者たちがいる。

 彼らは魔術の研鑽の果てに、膨大な魔力を内包し、不老不死となったものたちだ。


 不老不死になる過程はいくつかあるものの、因果については解明されている。

「膨大な魔力」と「強い想い」が重なったとき、その者は不老不死となる。


 例えば、口づけをすると不老不死になるという「吸血鬼の涙」もそうだ。

 吸血鬼が愛する者への想いから涙を流すとき、その雫には膨大な魔力が宿る。

 それに口づけをする者は、きっとその吸血鬼を愛しているだろう。何かしらの祈りや願いを込めて唇に触れるに違いない。

 そして「膨大な魔力」と「強い想い」が重なり、その者は不老不死となるのだ。

 そして、この「強い想い」が絶たれた時、もしくは昇華されたとき、不老不死という魔法は解けて、死に至る。


 長年研鑽を極めてきた魔術師たちにも、何かしらの理由がある。

 その理由こそが、彼らを不老不死という存在にさせるのだ。

 そしてその理由のために長い長い年月を旅し続ける。

 それが大魔術師である。


 故・時の大魔術師が造った最高傑作の魔法道具。

 それが「花散る砂時計」だ。


 棺の頭側に備え付けられた大きな砂時計の中には、砂の代わりに小さな花が詰まっている。

 故・時の大魔術師は、この小さなたくさんの花を一つ一つ、丹精込めて育て上げ、砂時計の中に閉じ込めた。

 この砂時計の花が零れ落ちている間だけ、棺の中に寝かせた死体が時を遡り、全盛期の姿となって死した本人の魂が戻ってくるのだ。


 故・時の大魔術師は、生涯をかけてこの砂時計を作り上げた。

 故・時の大魔術師は、ずっと後悔していることがあった。

 夭逝した愛する伴侶の死に際に、間に合わなかった。

 だから、もう一度一目だけでもと、長い長い年月をかけてこの魔法道具を作り上げたのだ。


 この魔法道具が使用された所を見た者はいない。

 砂時計の中の花は今なおかれることはないが、故・時の大魔術師は、自身の伴侶を想ってこの花を育て上げた。

 だから、伴侶以外の者には使えなかったのだ。


 使用された所を見た者はいなくても、故・時の大魔術師はその想いを成し遂げたのだろう。

 想いを昇華したその大魔術師は、その長い旅を終えたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る