46.泡沫鉱石《素材》

 潤沢な魔力を秘めた物体は、往々にして価値が高い。

 中でも、“鉱石”と呼ばれる物は宝石・芸術品としての価値も高く、最もポピュラーな魔法素材だ。

 伝説と呼ばれている精霊鉱石や、石鳥いしどり――フェニックスの石化した表皮などもそうだ。ちなみにこれは、焔火えんか鉱石と呼ばれている。


 ここからは、そんな鉱石たちをいくつか紹介していこう。


 東の大陸――オリエントは大小様々な島から成る大陸だ。

 ほとんどが海と面しており、海と共に生きていると言っても過言ではない。なんせ、ここでの通貨は貝を使用しているほどだ。

 それ故に、東の大陸オリエントでは海に由来する素材が多く存在する。


 その中の一つに、泡沫うたかた鉱石というものが存在する。


 手のひら大の丸いガラス玉のような鉱石で、暗い場所ではこれ自体が淡く発光する。

 ピンク、黄色、水色、緑色などなど、様々な淡い色合いのものがある。

 だが、一番価値が高く魔力量も多いのは、なんと言っても虹色に輝くものだ。


 この泡沫うたかた鉱石は、真珠のように貝の中で作られる。泡貝あわがいと呼ばれる、両腕で抱えるほどの大きさの貝だ。

 常に気泡を吐き出しているのが名前の由来である。

 珊瑚と近い環境が生きるのに適した生物なので、珊瑚礁の近くにいることが多い。泡貝あわがいが吐き出す気泡は魔力が豊富なので、それを吸収した珊瑚礁はどんどん巨大になり、島が出来るほどである。


 とにかく泡貝あわがいは数が多い。

 だから、人が住む辺りの泡沫うたかた鉱石は、回収しないと魔力が溢れ、“何かしら”を起こしかねないのだ。

 が、回収しても泡沫うたかた鉱石自体はピンきりが激しい。形が歪んでいたり、魔力量が少なかったり、濁っていたりすると価値が下がるので、叩き売りされる様子を見ることもある。


 そんな泡沫うたかた鉱石が起こした“何かしら”のお話。

 ずばり、それは幽霊船である。


 東の大陸オリエントの海を航行していると、前触れもなく海面が凪ぎ、海上に霧が立ち込める事がある。

 そして、霧の奥から大昔の巨大な戦艦が姿を現すのだ。

 帆はボロボロで、船体にはフジツボが張り付き、船上には誰の姿もない。

 ただ静かに、自分たちの船を横切っていくのだという。

 その不気味さに、船乗りたちはそろって恐れおののいた。


 実はこれ、船底が抜けており、そこを珊瑚礁が塞いでいる。

 もちろんそこには、泡貝あわがいもたくさん住み着いている。

 元々、珊瑚礁が張り付いていた所に穴が空いてしまい、それを補うように繁殖していった結果と思われる。

 そして泡貝あわがいが持つ泡沫うたかた鉱石の影響で、今でも船が動き続けているのだ。


 これを突き止めたのは命知らずの少年だ。

 父親と漁に出た彼は、たまたま幽霊船に出会った。そして父親の制止も聞かず海に飛び込み、船底を確認してきたのだ。

 それまで幽霊船に怯えていた船乗りたちも、正体を知ってしまえば何てことはない。

 今や出会えたら運が良いと言われるような、海の風物詩となっている。


 そんな風だから、本物の幽霊船と出会っても誰も気付かない。

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