7.吸血鬼の涙《伝承》

 定義「人外」の中でも、膨大な魔力と高い知性を有する「魔族」に分類され、生きた人間を糧にする者たち。

 特に、「人」と限りなく近い姿を持ちながら「人」の血液を満足いくまで啜り、必ず殺す。そんな残忍な特性を持つ吸血鬼たちは、肉体のほとんどが魔法素材となる。


 基本的には呪術に使用される部位が多い。

 髪、眼球、牙、爪、骨ーー特に心臓は大変貴重だ。

 魔族の心臓は、魔力の塊である。その中でも吸血鬼のそれは、ドラゴンほどではないにせよ魔力量が多く、しばしば規模の大きい魔法道具の核にされる。


 そして吸血鬼の血は、老化を遅滞させる効果を持つ。

 魔力を多く持つ存在の血液は大抵同様の効果を持つが、吸血鬼は他者の血液を取り込むせいか、この効果が一段と強い。

 話によると、小瓶一本飲めば、10年は歳をとらないらしい。

 だからこの血液は、吸血鬼の部位の中でも一番人気だ。自然と、格の低い魔族の血を吸血鬼のものだと騙る偽物も多く出回っている。


 魔族狩りを生業とする者にとって、吸血鬼は良い商品だ。何せ捨てるところがない。ーー自分が肉塊にされて打ち捨てられなければの話だが。

 吸血鬼は魔族の中でも一際強力な存在だ。ゆえに、狩ろうとするなら命懸けである。

 たまにそんな危険な存在しか追わない、吸血鬼狩りしかしない変わり者もいる。彼らにも事情はあるのだろうが、周囲の魔族狩りから見れば命を投げ捨てているようなものだ。


 そんな彼らが表舞台に出る事は、最近では滅多にない。

 上記の理由から、「人」から命を狙われる危険が高いため、完璧に「人」に紛れて生活するか、「人」が来ないような辺境に引きこもるかの二択をとっているのだ。

 そして、「人」の血を吸うーー食事の後に必ず相手を殺すのは、自身が吸血鬼である事を隠し通すための知恵だ。

 吸血痕をわからなくするために、死体をズタズタに引き裂くか、見つからない場所に隠すのも特徴である。


 彼らは、「人」を信じていない。


 それでも、もしかしたら「人」と吸血鬼が手を取り合う事もあるかもしれない。


 吸血鬼の涙、という伝承がある。

 その昔、人間の女性を愛した吸血鬼が、彼女のために涙を流した。

 彼女は彼の頬を伝う涙にそっと口づけをした。

 すると、彼女は不老不死となった。今でも吸血鬼と共に、永遠の命を生きている。


 伝承、真実、眉唾などなど、数ある「不老不死のなり方」の中でも、一番ロマンチックな方法だ。


 こんなおとぎ噺が伝わっているくらいなのだから、事実ではないにしろ、もしくは似たような事があったのだろう。

 もしかしたら、今でもこの二人はどこかで静かに暮らしているのかもしれないし、新たな二人が生まれているかもしれない。

 何しろ吸血鬼たちは表舞台には出てこないから、当人たち以外には知る由もない。

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