22.星石回廊《場所》
大地の魔術を専門に扱う者たちに、聖地と呼ばれる遺跡がある。
大地の大魔術師が守護しているため、大地の魔術師以外は、この場所に立ち入ることはできない。
遠い遠い昔に滅んだ国の、長い回廊の遺跡だ。
気遣いの欠片もない冷たい風が吹く広い草原。そこに突如として姿を現すこの遺跡は、まるでそこから違う世界が広がっているような、異世界への入り口のような、神秘的な存在感を放っている。
ここは、
その名の通り、
星石とは、マナを多量に含んだ魔法鉱石だ。その密度の高さゆえに視認できるほど高濃度になったマナは、濃紺の鉱石の中で金箔の星空のように煌めいている。
月光でより煌めきを強くするこの鉱石は、まるで夜空に浮かぶ星空のような見た目にちなんで星石と呼ばれているのだ。
長く続く回廊の床も、その両側に立ち並ぶ柱も、全てが星石でできているのが、この星石回廊だ。
支える天井は一辺残らず崩れ落ちて久しいにも関わらず、風雨に晒されている柱たちは、未だに一本も崩れることなく健在だ。
同じく床の星石も、所々ひび割れているものの、変わらず美しい姿を保っている。
大地の魔術師たちは、よく晴れた真夜中にこの遺跡を訪れる。その時には、必ず花束を持っていく。
この床には、常に薄く水が張っている。水面に反射した夜空と、その中に煌めく金箔の星々の上を、彼らはゆっくりと進んでいく。
静かに波紋を作りながら夜空を歩き続け、長い回廊終わりには、大きな湖が広がっている。
夜空を映す水面の奥深くには、かつてこの場所で栄えていたであろう国が、そのままの姿で沈んでいるのだ。
恐らく地盤沈下によって、国ごと湖の下に沈んでしまったのだろう、と考えられている。
強い強い大地の力が猛威を振るったであろうこの地が、大地の魔術師たちの聖地となった由縁だ。
彼らは、かつてこの場所で起きた大いなる力そのものに、畏敬の念を込めて祈りを捧げる。
その後、湖面の下の国と、そこで生活していただろう人々を偲び、花束を投げ入れるのだ。
この遺跡と沈んだ国については、ほとんど何もわかっていない。
国の名前すら、いまだに不明なのだ。
もしかすると、この地を守護する大地の大魔術師なら、何か知っているのかもしれない。
だが、名前はわからずとも、この場所が忘れ去られる事は無いだろう。
よく晴れた真夜中、またこの湖には花束が贈られる。
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