21.極光《景色》

 この世界ではしばしば旅人が見られる。

 世界中を旅する彼らの目的は様々だ。人々を治療して回る治癒術師、研鑽のために経験を積む騎士や魔術師、ひたすらに知識を求める者ーーーー

 旅は危険を伴うが、特に夢と希望を持って旅をする人種がいる。

 それは、「素晴らしい景色を見るために旅する者たち」だ。


 彼らが言う素晴らしい景色とは、人によって定義が違うらしい。

 人々の生活の営みを美しいと思う者もいるし、整備された街並みや城などの建物を見て回る者もいる。

 未開の地に踏み入り、新しい発見を探し求める者もいる。

 彼らは大抵、それらの景色を記録している。絵に描いたり文字や詩にしたり、音楽や歌にする吟遊詩人もいる。

 それらの作品は、いつの時代も人々の心を踊らせる。


 そんな彼らが一度は見たいと願うのが極光きょっこうという現象だ。

 空に薄いヴェールのような光のカーテンがかかる自然現象で、マナとマナのぶつかり合いで発生し、そのカーテンは様々な色に変化する。

 昼夜問わず起こり、マナの質や土地で色や大きさ、カーテンのたなびき方も変わってくる。

 主に魔力量が多いと思われる場所に、時たま発生するものだ。


 狙って見れるものではない極光だが、中でも有名なのは、魔術の国として新生したとある国のものだ。

 透石英とうせきえい、花水晶など悲しい出来事と縁多い国だが、同時に自然の美しさにも事欠かない。


 この国では数十年に一度、ほんの少しの間だけ、国全体を覆うほど巨大な極光が発生する。

 恐らく、この国に生まれる者たちが魔力を多く持つように、この土地に溢れるマナが特段に多いからと考えられる。

 山々と大きな河川、巨大な森に囲まれた陸の孤島と呼ばれるこの国を覆う光のカーテンは、周囲の景色と相まって、雄大かつ荘厳な自然の強大さを見せ付けてくる。

 その景色は、世界の威光そのものと言っても過言ではない。


 この極光の光は周辺諸国まで届く。必ず夜中に起こるのも特徴だ。

 これを見るためだけに、この国や周辺に住み着く者もいる。

 特にこの国が新生し、自由に行き来できるようになってからは、頻繁に立ち寄る旅人も多い。


 とはいえ、数十年に一度、それこそ五十年近くか、それを越えるほどの期間に一度しか起こらない現象だ。

 この極光だけを待ち続けていれば、宿願果たした頃には人生のほとんどが過ぎ去っている、なんてことにもなりかねない。


 それでもこの景色を切望し、人生を懸ける者は絶えることはない。

 待ち焦がれるあの極光こそが、人の生の光そのものなのかもしれない。

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