20.魔術義肢《魔法道具》

 義肢の歴史は古く、世界中のどこでも多かれ少なかれ見られる物である。

 木製や金属製の、普通に身体を補うものから始まり、魔法鉱石や魔術を使用されているものまで、中身はピンキリだ。

 中でも、魔術を使用され、義肢から魔法を打ち出すことができる魔法道具としての役割を果たす魔術義肢は、特に高度な技術を持って製作されており、治癒魔術と他の魔術を組み合わせた最先端の技術と言える。


 この魔術義肢を開発、実用まで押し上げたのは、アペイロンハーブを生み出した国、エクセリシア帝国だ。


 この国は元々豊かな土地と統制された政治で発展していった。その豊かさを狙った国がエクセリシア帝国に侵攻した。それを迎撃するために軍事強化に傾倒し、当時の帝王たちの方針もあって、長きに渡り強大な力を持つ軍事国家となっていた。

 若き帝王が玉座に着いてからは、周辺国とは停戦、又は終結させ、国内の軍事以外の分野に力を入れるようになった。


 その中でも、この国が最も力を入れている分野の一つが、治癒魔術である。

 長く続いた戦争で身体の欠損を抱えた者が多かったからだ。それを改善するため、外からも有能な治癒術師を招き、魔術義肢を開発するに至った。

 魔術義肢を取り付けた後は、担当治癒術師や有識者に調整し続けてもらわねばならない。その定期的な処置や診断も、国を挙げて支援したという。


 魔術義肢で使用できる魔術と言えば、義手や義足から魔法を打ち出し攻撃するような物が多いが、エクセリシア製の魔術義肢は、もっと広範囲な魔術を組み込んでいる。

 例えば、炎の魔術を打ち出せるものなどは、義肢にしか魔術が使用されていない。

 しかし、エクセリシア製は治癒魔術が組み込まれており、魔術義肢を装着する事によって身体欠損により低下した身体機能の回復を促す。

 使用者の身体全体に作用するものなのだ。

 他、全身の身体能力の向上なども効果もあり、一時は塞ぎこんでいた者たちも、この効果で新たな活躍の場を掴んでいる。


 これは、攻撃魔術を組み込む事に若き帝王が難色を示したのもあり、外から招かれた治癒術師の考案で作成されたものだ。

 大抵、義肢が必要になった者は戦争に赴くほどには心身共に健康な男性がほとんどだった。また、戦争当時の帝国は厳格な統制を取られていた。

 それ故に、他人の世話になり続けなければならないという心的負荷を負い、精神面が不安定になる者が多かったのだ。

 そういった者たちに自信を与えるためと、攻撃系の魔術が組み込まれた義肢を装着する事に恐怖を覚える者に配慮した結果だった。


 この魔術義肢は高い効果を示し、エクセリシア帝国はこの技術を他国に提供し始めている。

 若き帝王も威厳ある帝王になる頃には、元々強大だったこの帝国は、世界で最も発展している国の一つである。


 だが、エクセリシア帝国製の魔術義肢は確かに技術は素晴らしいが、デザインが質素でつまらない、というのは自他共に認める事実だった。

 効率主義の帝王が「華美な装飾など不要」と言い張るものだから、製作側の治癒術師、魔術師たちも、なかなか民が喜ぶようなデザインの物を作れないのだとか––––。

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