28.屍王《人物》

 大魔術師と呼ばれる条件は、二通りある。

 一つは、世界に大きな影響を及ぼした者。

 もう一つは、研鑽の果てに不老不死という《人外》の領域まで到達した者である。


 不老不死となるには、研鑽によって《人》の枠を越えた膨大な魔力を有するに至るだけでは転化しない。

 そこに、一つの強い目的が合わさり、“その目的のために悠久の時を生きる存在”となるのだ。

 目的が達成された、もしくは本人が満足した時、不老不死の大魔術師は死を迎えるのである。


 そして、死霊術師の身で大魔術師と呼ばれる者がいる。

 死霊術は、世界の理を破る禁術の一つだが、元は魔術でもある。

 その者は死霊術の大魔術師、屍王しかばねおうと呼ばれている。


 大魔術師と呼ばれるまで死霊術を研究し尽くした屍王しかばねおうは、当然の事ながら世界から“許さず”の印、呪印じゅいんが刻まれている。

 というよりも、この呪印じゅいんでしか屍王しかばねおうを見分けることができない。

 屍王しかばねおうは、とある特定の魂が転生する度に、何度も何度も何度も何度も、それを必ず見つけ出しては繰り返し殺し続けている。

 そして、殺した後の死体に自身の魂を移し、永遠を生きているのだ。

 魂が移されても必ず身体のどこかに浮かぶ呪印じゅいんだけが、屍王しかばねおうの証である。


 屍王しかばねおうは死霊術師でありながら、死霊を持ち合わせていない。

 恐らく、目標の魂以外に興味が無いのだろう。

 そして、その魂を殺し続ける事以外にも興味が無いらしいと聞く。

 だが、屍王しかばねおうをそっとしておいてくれる者は少ない。

 死霊術は禁術である以上、死霊術師は多かれ少なかれ裏の世界に通じている。

 そして、裏の世界には屍王しかばねおうの力を利用したい、屍王しかばねおうを手懐けたいと思う輩が少なからずいるのだ。

 屍王しかばねおうは、そういった輩を始めとした、“自身の邪魔をする者”に対して容赦しない。


 いつの時代にか、屍王しかばねおうが殺そうとしている者を人質にし、自分達に従うように迫った組織があった。

 裏の世界でも特に強大な組織で、それはもう屍王しかばねおうの対策を山ほど準備した上で、大人数で取り囲んだらしい。

 屍王しかばねおうは死霊術師のくせに死霊を一つも従えていないから、取り囲んだ者たちは余裕の表情を浮かべていたらしい。


 だが、屍王しかばねおうは一流の死霊術師であると同時に、最強の魔術師でもある。

 あらゆる分野の魔術を、ひたすらに戦闘に特化して行使する、純粋な強さを持つ魔術師だ。

 屍王しかばねおうの邪魔をしたこの組織は一夜で壊滅し、目標の人物も無事屍王しかばねおうの手で殺されたそうだ。


 この組織の壊滅の影響は、裏の世界のみならず、繋がりのあった表の世界にまで波及した。上部はいつも通りの世界だったが、暫くは各地の水面下で、混迷が続いていたらしい。


 屍王しかばねおうの素性も、目標の魂との因縁も不明である。

 転生しても前世の記憶を持っていることはごく稀なので、目標の人物もなぜ殺されているのかわからないことだろう。


 今日もどこかで、屍王しかばねおうは殺すべき魂を探しているのだろう。

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