29.雲海の剣《魔法道具》

 魔法道具と呼ばれる物は数が多く、内容もピンからキリまで幅が広い。

 これらは魔術師、もしくは学問として魔術を修めた上で職人となった者でないと、作る事が難しい。


 中でも、魔法武器と呼ばれる魔術を付随させた武器類は、眉唾や偽物が大変多い。

 剣、弓矢、斧、ナイフ、槍、杖、盾、などなど……。

 とにかく偽物が多い。詐欺が多い。

 本物のほとんどは有名な職人や、販売元がしっかりした所などに限られてくるため、初心者はその安さについ目がくらんでしまうだろう。

 だが、いざという時に壊れたり、使い物にならなかったら命取りだ。

 元手がないのなら、下手に手を出さずに普通の武器を購入した方が無難だろう。


 とはいえ、骨董品や質屋に並ぶ物の中に掘り出し物が隠れている可能性も否めない。

 目利きの自身のある者はそういった場所に足を運ぶこともある。

 どちらにしろ手練れのやる事なので、あまり参考にはならないのだが。


 初心者にも比較的――それでもそこそこ値が張るのだが――安価に手に入り、効果が大きい魔法武器として、「雲海うんかいつるぎ」というものがある。


 西の山脈の中に、常に雲海に沈む山々がある。

 高山だからではない。この山一帯に存在する白い岩が、雲を生んでいるのだ。

 しかも、この雲は強力な絶縁魔力の効果を持っており、中にいると魔術や魔法道具が使えなくなる。

 魔力を多く有する魔族などの人外は、この地域を避けるそうだ。

 この岩は地元住民から雲海岩うんかいがんと呼ばれ、精霊信仰とは違った形での信仰の対象として扱われている。

 その為、雲海岩うんかいがんの採掘自体は、地元住民の管理下の元行われている。街おこしの為らしい。

 これを使用して製作された魔法武器が、雲海の剣なのだ。


 剣と言っても、多くは小ぶりのナイフである。

 鞘から抜き、一振りすると絶縁魔力の効果を持った雲が発生する。

 実はこれが大変役に立つ。

 例えば、魔術を当てられそうになった時、このナイフで切り裂く事で、魔術を無効化できるのだ。

 何度も空振りすれば、周囲に霧のような雲海を発生させる事もできる。こうなると、魔術や「雲海うんかいつるぎ」以外の魔法道具の効果はかなり薄められる。

 防御特化の魔法道具なのだ。


 たまに、ナイフではなく剣の「雲海うんかいつるぎ」もある。ナイフよりも雲海岩うんかいがんの含有量が多いので、下手な魔法武器よりも高価になる。

 だが、その金額に見合った効果を発揮する。この「雲海うんかいつるぎ」は、鞘から抜いただけで周囲に霧が発生するのだ。

 この魔法武器を持ち出されたら、さっさと逃げるか、短期戦で決着をつけるしかない。

 この「雲海うんかいつるぎ」は諸刃の剣だ。相手は魔術も魔法道具も使用できなくなるが、それはこちらも同様だ。

 ナイフ型のような逃走のための補助ていどの物ならともかく、剣型を持ち出したという事は、その持ち主は、剣一本で勝利するだけの自信があるという事なのだ。


 実際に、剣型の「雲海うんかいつるぎ」を持った剣士がいる。

 自分の剣の腕を磨くため、強い者に片っ端から勝負を挑むのだそうだ。

 もしあなたがそこそこの実力がある魔術師ならば、気付かれないうちにその場から離れるべきだろう。

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