16.炎の大魔術師 ヘイズ・レイ《人物》

 世界中には、大魔術師と呼ばれる魔術師が複数いる。

 魔力を操り魔術を使用するのが魔術師だ。

 魔力は誰しもが持ち合わせるが、魔力を行使する才が無いと、どんなに魔力を持っていても意味がない。蝋燭に火をつけるのがせいぜいとなる。

 逆に才があっても大した魔力量が無ければ、魔術を使うことは難しい。

 だが、生まれついての魔力量と才は、訓練である程度伸ばす事ができる。

 そうして魔術を極め、研究するのが魔術師だが、研鑽を積んでいくと、特に魔力量が膨大となる。

 人の身に余る魔力は身体に影響を及ぼし、《人》の定義を越えた長命、不老となっていく。

 研究の末に《人外》にまで到達した者を、畏敬を込めて大魔術師と呼ぶのだ。


 大魔術師は、専門分野を名に冠し、自身を中心に置いた魔術組織を設立するのが常だ。その方が研究が捗るからでもあり、研究を続けていくうちに人が増え、いつの間にか組織になっていることもある。

 魔術組織の活動は、研究はもちろん、経済活動や組織に属する魔術師の育成や派遣と多岐に渡る。魔術師ならどこかに所属しておくと信用性が上がる。


 だが、炎の大魔術師はいれど、大きな炎の魔術組織は存在しない。

 初歩的かつ重要な分野であるにも関わらず、小~中規模の組織が乱立している状態なのだ。

 それもこれも、偉大な炎の大魔術師ヘイズ・レイが、自分の組織を作ろうとしないからだ。彼の名が大きすぎて、他の組織の求心力が無いのが原因だ。


 彼は、大魔術師となった者には珍しく、今でも精力的に人前に出て活動している。

 魔力さえあれば点火できる燃料要らずのランプ、高い温度を保ったままにできる水筒や箱、軽くて暖かいマント、火の勢いを保つことができる燃料補助材などなど、派手な大研究よりも、人々の生活に戻っていく密着し、日々をより良くしていくような発明が多い。

 そして発明した道具は、気に入った商人辺りに人々に広めるように言って権利ごと渡してしまうのだ。


 自由奔放に日々を過ごす、炎の大魔術師ヘイズ・レイ。本当は、彼は一つだけ魔術組織を作ったことがある。

 氷魔術の組織「イセベラリオン」。彼は、親友のイセベル・ムシカの弟子と共に、この組織を作ったのだ。


 ヘイズ・レイは、人懐こく世話焼きな人物だ。世捨て人のように研究のみに注力するイセベル・ムシカの事が、文句を言いつつも大好きだった。

 そして、彼女の弟子の事も大好きだった。イセベル・ムシカが生涯唯一の弟子にした少年とは、立場の違いを越えて友情を育んだ。


 この師弟が国を追放され、苦境に立たされたとき、ヘイズ・レイは彼らをよく助けた。

 新しく住む場所を用意し、弟子の「イセベル・フラワー」の売り込みにも援助した。

 これが大成功した時は、イセベル・ムシカや当の弟子よりも喜んだという。

 師弟の所の人手が足りなくなった時、ヘイズ・レイは知り合いの魔術師や権力者を説得し、弟子を筆頭にして組織を設立させた。

 イセベラリオンは、彼がいなければ存在しなかっただろう。


 イセベル・フラワーが売れに売れ、人々の生活を豊かにしていった頃から、ヘイズ・レイは今のような生活に役立つ研究と発明をするようになった。


 弟子が事故で亡くなり、イセベル・ムシカがその後を追った時、ヘイズ・レイは彼らの遺体の前で、静かに滂沱ぼうだした。


 長く生きる彼に友人はたくさんいれども、イセベル・ムシカとその弟子ほどに親しい相手は、今はいない。


 年に一度、彼は永遠の眠りについた二人に会いに、イセベラリオン本部に顔を出している。

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