43.石鳥《生物》

 石鳥とは、鷹ほどの大きさをした、美しい鳥である。

 炎のような美しい翼と尾羽を持つ彼らは、主に火山地帯に生息している。本名はフェニックスであり、石鳥は俗称である。


 彼らは長生きで生命力が強く、炎由来の魔力を体内に溜め込んでいる。長い間食事を採らなくても平気で、彼らが生む卵はとても固い。


 彼らは火山地帯に生息するせいか、その翼の在り方が溶岩に近いのだ。

 揺らめく炎を思わせるその翼は、手入れを怠るとマグマが冷えるが如く表面が石化してしまう。

 本来は岩石に身体を擦り付けてそれを落としていくのだが、放置し続けると石化の層が厚くなり、身体が固定されて身動きが取れなくなってしまう。そして、ついには死に至るのだ。

 これが、フェニックスが“石鳥”と呼ばれる由縁である。


 だが、分厚く石化した部分を綺麗に剥がすと、裏面は羽の紋様が美しく彫り込まれた、灼熱の色を称えた結晶と化している。

 この結晶は大変貴重で、魔法素材としても有用だが、見た目の美しさから自然界の芸術品として高値で取引される。

 結晶化するほど石化した体を持つ石鳥は珍しく、もし石化してもそれは生命に関わる疾患でもあるため、石鳥自身が死んでしまうことも多々ある。

 羽一枚分の結晶すら、数十年に一度採取できるかという程だ。


 この結晶は炎由来の力を持つため、炎を扱う魔術師の間では、フェニックスと共に神聖視されている。

 炎の大魔術師ヘイズ・レイの杖にはこの結晶が使用されているのだとか。


 この噂を耳にした者の中には、貴重な魔法素材を使用しているから彼は大魔術師になったんだ、などとのたまう輩も多い。

 だが、炎の魔術師の間では、この結晶は神聖視こそされているが、使用されることはほとんどない。

 ほんの一欠片でも内包された力が大きすぎて、並大抵の魔術師にはとても扱える代物ではないからだ。

 せいぜい棚に備えてありがたがるだけである。


 だが、自身の力を客観視できず、この貴重な結晶を使って魔術の研究をしようとする者が後を立たない。

 大抵そういった魔術師は、お山の大将気取りのだ。

 そして大事故を起こし、大抵焼け死んでいる。


 そんな話を聞くたびに、炎の魔術師は「またか」「貴重な資源を無駄遣いして」とため息をつくのだった。

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